モジュールやモジュール化という言葉は、もともと製造業界や建設業界でよく使用されていますが、アプリケーション開発の分野でも活用が進んでいます。アプリケーション開発におけるモジュールとは、システム内に含まれた一つひとつの機能を指し、その機能ごとに開発作業を分ける方法をモジュール化といいます。
一度開発したモジュールを別のアプリケーションに流用できるため、開発工数を削減できます。ただし、注意点もあるため、メリットとデメリットを踏まえて適切な活用方法を理解することが重要です。
本記事では、モジュール化の仕組みやメリット・デメリットを解説します。
モジュール化とは機能ごとに開発作業を細分化する手法
まずはモジュールの概要とモジュール化の仕組み、よく似た用語との違いを解説します。
モジュールの概要とモジュール化の仕組み
モジュールには「部品」という意味があり、何らかの要素を構成する単位を表します。例えば、製造業界では製品の一部である部品、建築業界では尺や間といった長さの基準として、モジュールという用語が活用されています。アプリケーション開発のようなIT業界では、アプリケーションを構成する一つひとつの機能を指すのが一般的です。
このような意味があることから、アプリケーションにおけるモジュール化とは、機能ごとに開発作業を細分化する手法を指します。モジュール化により機能別に開発を進められるため、機能単体でテストを実行したり、機能ごとに追加や削除を行ったりと、作業効率の向上が見込めます。
コンポーネントやライブラリとの違い
モジュールとよく似た言葉に、コンポーネントやライブラリがあります。
モジュールと同じように、コンポーネントにも「部品」のような意味合いがありますが、単体の機能を表すモジュールと違い、複数の機能を組み合わせて利用するのが特徴です。例えば、ヘッダーやボタンといった機能を、一つのUIとして統合するようなイメージです。
ライブラリは、特定の機能を持つプログラムを、ほかのシステムから呼び出すために部品化したものを指します。あくまでほかのシステムで稼働することが前提なので、ライブラリ単体では実行できません。そのため、アプリケーション内部の部品(機能)を指すモジュールと異なり、ライブラリは外部システムを動かすための部品(プログラム)だといえます。
モジュール化を活用する4つのメリット
モジュール化を活用するメリットは次の4点です。
- 開発効率の向上につながる
- ヒューマンエラーが起こりにくくなる
- 開発コストを抑えられる
- 保守管理の工数を削減できる
それぞれのメリットを理解して、モジュール化でどのような効果が得られるかを理解しましょう。
開発効率の向上につながる
本来、アプリケーション開発では、プログラミングを使ってさまざまな処理を実行します。モジュール化を実現すると、特定のモジュールに利用したプログラミングを、そのままほかのモジュールでも利用できることがあるので、開発工数の大幅な削減が可能です。
また、テスト検証に費やす時間短縮にもつながります。モジュール化によって一つひとつの機能を順番にテストすることで、問題が起きた際の手戻りの工数が減ります。結果として開発効率が高まり、組織全体の生産性やプロジェクトの納期遵守率を向上できるのが利点です。
ヒューマンエラーが起こりにくくなる
すでに完成しているモジュールは、別のアプリケーション開発にも活かせます。モジュール同士が同じような機能であれば、コピー&ペーストによるシステム構築が可能です。
プログラミングを使って一つひとつのシステムを構築する場合、記述ミスや漏れなどのヒューマンエラーが起こりがちです。その点、コーディングなしで再利用が可能なモジュール化であれば、システムの構成をそのまま組み込むだけで済むため、ヒューマンエラーが起こる機会を最小限に抑えられます。開発時のヒューマンエラーが減少することで品質向上を図れるでしょう。
開発コストを抑えられる
一度開発したモジュールは別のアプリケーションにも流用できることから、開発コストの削減にもつながります。品質が担保されたモジュールであれば、テスト検証の簡略化や開発期間の短縮、それに伴う人件費の削減が可能です。結果として予算に余裕が生まれるため、その分を機能の拡張や専門人材の採用などにあてることで、より質の高いアプリケーション開発へと発展できます。
保守管理の工数を削減できる
モジュール化は開発段階だけでなく、アプリケーションをリリースした後の保守管理でも効果を発揮します。リリース後にアプリケーションの不具合が発見された場合、本来はシステム全体を再構築しなければなりません。
一方、モジュール化した箇所に不具合があれば、そのモジュールのみ内容を見直すだけで済みます。システム全体を見直す必要がないため、保守管理の業務効率化が可能です。また、モジュール化によってプログラムが簡素化され、可読性が高まるため、より短時間で問題箇所を特定できます。
モジュール化を活用する2つのデメリット
さまざまなメリットがあるモジュール化ですが、次のようなデメリットもあります。
- 独自性を損なう可能性がある
- 大規模な開発には向いていない
デメリットを理解すれば、あらかじめ適切な対策を立てられます。それぞれのデメリットを詳しく解説します。
独自性を損なう可能性がある
共通したモジュールを活用することで、開発効率の向上やコスト削減といった効果が見込めるものの、あまりにもモジュール化が進むのも考えものです。ほかのアプリケーションから流用するモジュールが増えると、アプリケーションそのものが汎用化し、独自性を損なう可能性があります。これは競争優位性が低下する重要な問題です。
また、モジュールの種類が増えすぎると、今度はその管理が煩雑化します。このようにモジュール化のメリットがかえってデメリットと化すこともあるので、適応させる範囲を入念に検討することが大切です。
大規模な開発には向いていない
アプリケーション開発の規模が大きくなると、システム構築が複雑化し、業務効率化というモジュール化のメリットを活かせない場合があります。アプリケーション開発では、システムとモジュールの間で齟齬が発生するたびに、微調整を行わなければなりません。大規模開発の場合はその微調整が繰り返し発生するため、モジュール化では効率性を損なう可能性が高くなります。
そのため、「どのような環境でもモジュール化は最適な手段」という概念は存在しません。開発環境に応じて柔軟に適切な手段を選び分けることが重要です。
モジュール化の主な手法
アプリケーションの機能をモジュール単位に分割する際は、次のような手法を活用できます。
- STS分割:
「Source(入力)・Transform(変換)・Sink(出力)」というデータの流れに沿って、モジュールを階層別に分類する手法 - トランザクション分割:
トランザクション(一連の処理を複数まとめたもの)単位でモジュールを分割する手法 - 共通機能分割:
STS分割やトランザクション分割で共通する機能があれば、それらをひとまとめとしてモジュール化する手法 - ジャクソン法:
「基本・連続・選択・繰り返し」の要素から、入出力データの対応関係を割り出してモジュールを分割する手法
これらの手法はプログラムの構造を考える際に利用します。各手法によって最終的な構造が決まるため、目的に応じて適切な手法を選択しましょう。
モジュール化を効率良く実施するための2つのポイント
効率的にモジュール化を実施するには、管理体制の構築や独立性の評価など、複数のポイントを理解することが重要です。ここでは、そのポイントを詳しく解説します。
モジュールの管理体制を構築する
モジュールは種類や数が多くなるほど管理が煩雑になりがちで、かえって効率が低下します。このような事態を避けるためにも、モジュールごとの設計基準を明確にすることが大切です。製造業では、この設計基準を組織内で共有するために、BOM(Bill Of Materials:部品表)を使うケースが少なくありません。アプリケーション開発の分野でも、BOMと同じような情報共有基盤を用意しておくのがおすすめです。
また、開発担当者を起用する際、製品単位ではなくモジュール単位でチームを構成するのも一案です。これにより各製品へとスムーズに同一モジュールを適用できます。情報共有手段やチーム編成など、あらかじめモジュール化に向けた管理体制を構築しておきましょう。
強度と結合度でモジュールの独立性を評価する
モジュール化を実施する際は、モジュールの独立性を評価するために、「強度」と「結合度」という指標を利用します。モジュールごとの独立性を把握すれば、ほかのモジュールとの依存度や再利用性を客観的に見極められます。
モジュールの強度は、複数のアプリケーションで同一モジュールが使用されているほど弱くなり、その分独立性が低い状態です。結合度に関しては、モジュール同士でのデータのやり取りに着目します。ほかのモジュールを直接参照しなければデータの受け渡しが完了しないなど、モジュール間でデータが密接に紐付いているほど結合度が強く、独立性は低くなります。
アプリケーション開発の効率化にはGoogle Cloudがおすすめ
アプリケーション開発の効率化を図るには、モジュール化を実施することも大切ですが、あわせてGoogle Cloudのようなサービスを導入するのも方法の一つです。Google Cloudは、100種類以上のプロダクトが搭載されたクラウドプラットフォームで、そのなかにアプリケーション開発用の機能が用意されています。
例えば、ノーコードで開発プラットフォームを築けるApp Sheet、開発作業の自動化に向けたApp Sheet Automation、バックグラウンド処理に特化したApp Engineなどが代表的です。このようなプロダクトは単独で使うのはもちろん、複数を組み合わせることも可能です。クラウドベースで独自の開発環境を構築できるため、モジュール化に向けた体制を整える際にも役立ちます。
メリットとデメリットを踏まえて上手くモジュール化を活用しよう
モジュール化は開発工数の削減やヒューマンエラーの防止といったメリットがある一方で、独自性を損なう、大規模開発には向かないなどのデメリットもあります。そのため、現状の開発環境や目的に合わせて、モジュール化を導入すべきか客観的に判断することが大切です。
また、モジュール化とともにツールの利便性を活かすことで、業務効率化や生産性向上の効果が高まります。なかでもGoogle Cloudには、アプリケーション開発に役立つ幅広いプロダクトが搭載されているため、独自の開発環境を構築するのに最適です。
電算システムでは、環境構築やコンサルティングなど、Google Cloudの導入支援サービスを提供しています。専門領域に精通した数多くのエンジニアが在籍しているので、スピーディかつ質の高いサポートを行えるのが強みです。さらに、電算システムのリセールサービスを活用すれば、Google Cloudの利用料に関する請求書発行や割引などを利用できます。Google Cloudと電算システムについては以下の資料で詳細を紹介しているので、参考にしてください。
監修者
<保有資格>
・Associate Cloud Engineer
・Professional Cloud Architect
・Professional Data Engineer
・Professional Cloud Database Engineer
・Professional Cloud DevOps Engineer
・Professional Cloud Developer
・Professional Cloud Security Engineer
・Professional Cloud Network Engineer
・Professional Workspace Administrator
- カテゴリ:
- Google Cloud(GCP)
- キーワード:
- モジュール化とは