テキストや画像などを自動生成できる生成AIは、クリエイティブ業務の効率化や生産性向上に効果を発揮することが期待されています。そのため、労働力不足や業務効率の低迷に悩まされている方のなかには、生成AI技術の導入を検討しているケースも多いのではないでしょうか。
ただし、生成AIには、いくつかデメリットやリスクが存在するため、適切な運用方法を理解したうえで導入を検討することが大切です。
本記事では、生成AIの6つのデメリットと、その対処法を解説します。向いている企業の特徴も紹介していますので、生成AIの要否を判断する際の参考にしてください。
生成AIを活用する際の6つのデメリット・注意点
生成AIを活用する際のデメリットは次の通りです。
- 著作権や商標権を侵害するリスクがある
- ハルシネーションが発生する
- 情報漏洩リスクが高まる
- 適切な指示を与えるのが難しい
- 思考プロセスがブラックボックスに陥りやすい
- 一時的な支出が増える
これらのデメリットは、生成AI活用時の注意すべきポイントともいえます。そのため、導入前にそれぞれの要素を検証し、現状の環境やリソースで対応可能か否かを見極めることが重要です。
著作権や商標権を侵害するリスクがある
生成AIの性質上、どうしても権利侵害のリスクが発生します。生成AIでコンテンツを作成するには、まず参考となる学習データをインプットしなければなりません。すると、学習データの内容や傾向が出力結果に反映され、既存コンテンツと生成コンテンツが似通う可能性があります。
特に生成コンテンツを商用利用する場合、既存コンテンツの著作権者から指摘を受けるケースも考えられるでしょう。
ハルシネーションが発生する
ハルシネーションとは、コンピュータがあたかも整合性の取れた情報を、誤りがあるとも知らずに生成することです。例えば、歴史上の人物の偉業について生成AIに質問すると、「○○年に○○という技術を開発した」という、もっともらしい回答が返ってくるため、それを見た人間は真実のように受け取ってしまいます。しかし、生成AIが生み出す情報は、必ずしもすべて正しいとは限りません。
ハルシネーションが起きるのは、学習データにWeb上の情報が含まれているためです。Web上には膨大な量の情報が蓄積されていますが、なかには誤情報が含まれているため、それを参考に出力結果を返す生成AIにも誤りが生まれます。
情報漏洩リスクが高まる
生成AIサービスを利用する際に、企業の機密情報を入力すると、その情報が学習データとして再利用される可能性があります。結果、第三者が同様にサービスを利用した際に、自社の機密情報が出力結果に現れることも考えられます。
顧客や従業員の個人情報だけでなく、製品開発や研究用のデータにも注意が必要です。
適切な指示を与えるのが難しい
コンピュータは人間が行う指示の意図や背景を完全に理解できるわけではありません。そのため、指示の仕方によっては、意図しないコンテンツが生成される場合があります。
適切な指示を与えるためにはプロンプトのパターンを理解しなければならず、学習コストがかかる点にも注意が必要です。2024年2月時点では、日本語よりも英語で指示を出すほうが、出力結果の精度が高まりやすいため、語学学習や翻訳ツールの導入などにコストがかかることもあるでしょう。
思考プロセスがブラックボックスに陥りやすい
生成AIは、機械学習やディープラーニングといった複雑な構造のもとで学習を進めます。出力結果を生み出すために膨大な量のデータを処理しているため、「どのようにしてその結果に至ったのか」という点を人間が理解するのは困難です。
このように思考プロセスがブラックボックス化すると、社内にノウハウを蓄積しにくくなります。仮に競合他社も自社と同じような形で生成AIを活用している場合、差別化が難しく、価値あるコンテンツを生み出せない可能性も考えられます。
一時的な支出が増える
無料で利用できるケースが多い生成AIサービスですが、なかには有料サービスも存在します。そのため、生成AIを活用するために一時的なコストが発生することがあります。また、学習用データベースの構築やデータ処理にコストが発生する点にも注意すべきでしょう。
生成AI技術を活用する際に専門人材を採用する場合は、採用コストの増加も視野に入れておくことが大切です。
生成AIのデメリットを解消する4つの対応策
生成AIのデメリットは工夫次第で解消が可能です。ここでは、デメリットへの対応策を詳しく解説します。
生成AIに関する法律や判例を理解する
2024年2月の現時点では、生成AIの利用に関する法律が完全に整備されているわけではありません。しかし、過去の判例にもとづいた専門家の見解が徐々に現れ始めています。
生成コンテンツが著作権法に抵触するか否かは、まず権利制限規定の「私的使用のための複製」に該当するかどうかが問われます。
仮に生成コンテンツを私的に利用する場合は、権利制限規定に該当するため、著作権者の許諾が必要ないとされています。反対に、生成コンテンツを世の中に公開した場合、権利制限規定に該当しないケースが多いことから、著作権者の利用許諾が必要との見解が一般的です。つまり、許諾なしに公開した場合は著作権侵害に当たります。
生成AIを活用する際は、関連する法律や判例への理解が欠かせません。情報を調べるには、一般社団法人 日本ディープラーニング協会の「生成AIの利用ガイドライン」が役立ちます。
生成AIのリスクを周知し利用ルールを策定する
組織内のすべての従業員が、生成AIを正しく利用できるとは限りません。だからこそ、生成AIは良い面ばかりではなく、リスクがあることも従業員によく理解してもらう必要があります。
また、周知徹底のほかにも、利用ルールを策定することが重要です。特に企業の機密情報が流出すると、社会的責任を問われる可能性もゼロではありません。そのため、生成AIサービスの利用時に、顧客の個人情報や社内の研究データなどの入力を禁じ、さらには管理者による入力情報のチェックを実施するのが理想的です。
生成AIサービスのポリシーや利用制限を確認する
生成AIサービスのなかには、ポリシー上の独自制限を設けている場合があります。例えば、テキスト生成AIサービスのChatGPTの場合、公式サイトに次のように表記されています。
● Don’t use our service to harm yourself or others
(自身や他者を傷付けるために当サービスを利用しないこと)
● Don’t repurpose or distribute output from our services to harm others
(第三者に危害を与えるために出力結果を配布・再利用しないこと)
引用元:Usage policies|OpenAI
利用制限に該当する行為をすると、サービス利用停止に陥る可能性があるので、十分に注意が必要です。
従業員の教育や専門人材の採用を行う
生成AIを正しく活用するには、意識改革のための社員教育が欠かせません。生成AIサービスの利用方法といった表面的な学習だけでなく、機械学習やディープラーニングなどを踏まえた、AIの全般的な知識習得が必要です。
専門的な知識や技術を持つ人材を採用し、社内リテラシーの底上げを図るのも良いでしょう。代表的な人材としては、製品開発や新規事業構築にAI技術を活かせる「AIプランナー」や、機械学習モデルごとの特性に応じて使い分けができる「AIエンジニア」などが挙げられます。
生成AIを活用する3つのメリット
生成AIにはデメリット以外に次のようなメリットも存在します。
- 生産性の向上
- クリエイティブの質向上
- ランニングコストの削減
メリットとデメリットの両面を理解すれば、生成AIとの向き・不向きを客観的に判断できます。
生産性の向上
データの集計・分類・整理に強みを持つ従来のAIに対し、クリエイティブな業務に対応できるのが生成AIの特徴です。アイデア創出やオリジナルコンテンツ制作、プログラミングなどをコンピュータがサポートすることで、クリエイティブ業務の効率化につながります。
業務効率化により余った時間を別の業務に割り当てられるため、組織全体のパフォーマンス向上が期待できます。単なる業務効率化だけでなく生産性向上に結び付けられるのが、生成AIの大きなメリットです。
クリエイティブの質向上
生成AIによる出力結果は、より良いクリエイティブを生み出すためのヒントになります。例えば、イラストを作成する際、いちからレイアウトやデザインを考えるよりも、生成AIのラフ案を発展させたほうが、クリエイティブの質が高まる可能性があります。
人間の場合は人それぞれに癖があるため、クリエイティブに個性が生まれる一方で、革新的な作品が生まれにくいのが難点です。その点、先入観や固定観念に捉われないAIだからこそ、想像もしない作品が生まれやすいといえるでしょう。
ランニングコストの削減
生成AIを活用すると一時的にコストが増えることもありますが、中長期的に見るとランニングコストの削減につながります。
生成AIを活用した結果、クリエイティブ業務のハードルが下がり、クリエイター以外の人でも質の高い作品を生み出せます。それによりクリエイティブ業務の内製化が進めば、イラストレーターやプログラマーなどの採用コストや外注費の削減が可能です。
生成AIに向いている企業の特徴2選
生成AIは誰でも手軽に活用できるものの、向き・不向きが明確に分かれます。ここでは、メリットとデメリットを参考に、生成AIに向いている企業の特徴を解説します。
クリエイティブ業務の効率化が進んでいない企業
クリエイティブ業務は定型業務とは異なり、機械による自動化が難しい領域です。定型業務であればRPAを活用して業務効率化を図れますが、クリエイティブ業務では適用が難しいため、業務効率化が進んでいないケースも珍しくありません。
しかし、生成AIの登場により状況が大きく変わりました。現状、出力結果の精度が低くなりやすい、法整備が不十分といった課題があるものの、クリエイティブ業務を機械がサポートする仕組みが生まれたのは大きな利点です。クリエイティブ業務の効率化が進んでいない企業にとって、生成AIは心強い存在だといえるでしょう。
クリエイターを起用する機会が多い企業
システム開発会社やマーケティング会社、メディアなどは、クリエイティブ領域が占める割合が大きく、数多くのクリエイターが必要です。その分、クリエイターの採用や外注などのコストが膨らみやすい傾向があります。
生成AIを活用すれば、機械によるクリエイティブ業務へのサポートが得られるため、省人化に効果を発揮します。結果として採用コストや外注費の削減が可能です。クリエイターを起用する機会が多い企業には、生成AIが向いているでしょう。
Google Cloudを導入して生成AIを最大限に活用しよう
ビジネスに生成AI技術を導入するなら、Google Cloudを検討してみてはいかがでしょうか。Google Cloudとは、150種類以上のプロダクトを搭載したクラウドプラットフォームです。ワンストップでデータ分析基盤の構築や仮想マシン作成などが可能です。
Google Cloudには、AIに関する幅広いプロダクトが搭載されています。また、従来のAIだけでなく、生成AIのプロダクトが充実しているのも特徴です。
例えば、プロダクトの一つである「Imagen on Vertex AI」を利用すると、テキストによる指示のみで独自の画像が自動生成されます。ほかにも、「Vertex AI Studio」といった開発者向けの生成AIプラットフォームが用意されているため、システム開発にも応用が可能です。
本格的に生成AIを活用したい方は、Google Cloudを導入するのがおすすめです。
メリットとデメリットを踏まえて生成AIを効果的に活用しよう
生成AIには、権利侵害や情報漏洩のリスク、思考プロセスのブラックボックス化など、さまざまな課題が存在します。しかし、このような問題は社内での工夫次第で解消できるほか、将来的な技術発展や法整備で徐々に改善することも期待できます。そのため、デメリットだけでなくメリットも踏まえ、生成AIの必要性を判断しましょう。
ChatGPTやStable Diffusionなどのサービスを個別に利用するのも一案ですが、複数のプロダクトをまとめて利用したい方には、Google Cloudが向いています。Google Cloudに搭載されている生成AIや一般的なAIのプロダクトを組み合わせることで、定型業務とクリエイティブ業務の両面で効率化が可能です。
電算システムでは、Google Cloudの導入支援サービスを提供しています。ツールの導入時だけでなく、運用に関する疑問にも回答できるため、初めての方でも安心です。以下の資料で詳細を紹介していますので、Google Cloudを導入してAIの活用を進めたい方は参考にしてください。
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