情報システムの担当者や経営者のなかには、社内システムを安定して稼働させる方法について悩んでいるという方が、いらっしゃるのではないでしょうか。自社の都合によって、短時間でもシステムを止められない場合、万が一のトラブルに備えた対策の検討・準備は、企業として取り組むべき重要な仕事です。天災や情報セキュリティ上の問題などに備えるには、社内における「冗長化」が有効です。
そこで本記事では、冗長化の概要やミラーリング・可用性との違い、必要性やメリット・デメリット、実施する際の構成、冗長化することが多いシステムを解説します。冗長化について詳しく理解できる内容になっているので、ぜひ最後までご覧ください。
冗長化とは?ミラーリング(二重化)・可用性との違いも解説
冗長化の概要について、以下の項目に沿って解説します。
- 冗長化とは
- ミラーリング(二重化)との違い
- 可用性との違い
概要を確認して、冗長化を正しく理解しましょう。
冗長化とは予備設備を準備しておくこと
冗長化(じょうちょうか)は、システムやコンピューター、ほかの機器に障害が起きた場合の対策として、既存の設備と同じものを運用・管理する取り組みです。「冗長」自体には「無駄が多い」という意味がありますが、ビジネスシーンでは「予備を準備して万が一に備える」という意味で使われます。
冗長化の特徴は、定期的にデータをコピーしてバックアップする方法とは異なり、別のシステムを複数準備して運用する点です。システムの停止が財産や人命に関わる場合は、冗長化の設計が欠かせません。
ミラーリング(二重化)との違い
ミラーリング(二重化)は、冗長化と混同されやすい用語の1つです。ミラーリングは、冗長化の1つではありますが、準備するシステムの数が異なります。ミラーリングは、万が一のトラブルに備えて、2つの同じシステムを運用・管理する取り組みです。冗長化では、同じシステムを3つ以上準備して、運用・管理します。
可用性との違い
冗長化と可用性は、関連性のある用語ですが、意味合いが異なります。可用性は、自然災害や機器の故障などによる障害が発生した場合でも、システムを停止させずに継続して稼働できる能力です。冗長化と可用性は、関連性のある用語ですが、意味合いが異なります。冗長化は、可用性を高めるために利用する手段の1つです。企業や団体が冗長化を実施すれば、システムの可用性を高められます。
可用性を高める取り組みは、システムを構築・導入する上で重要です。システムの可用性が向上すれば、障害が発生しても安定して稼働でき、一時的にシステムが停止しても、停止時間を短くできます。システムの運用・管理において、ヒューマンエラーや自然災害などの障害が発生するリスクは、ゼロにはできません。障害が発生した場合に備えて、事前の対策が必要です。
冗長化の必要性【緊急時のダメージを軽減するため】
冗長化は、BCPの策定につながる重要な取り組みです。BCPは、自然災害や機器の故障、サイバー攻撃などの被害を最小限にしながら、事業の継続・復旧をするための対策や方法を記した計画です。冗長化には、緊急事態において、企業に与える被害を最小限に抑える働きが期待できます。
東日本大震災をはじめとした自然災害が発生した際に、被災地域の多くの企業は、事業再開までに長い期間を必要としました。自然災害は突然発生するため、万が一に備えて冗長化は大切です。
また、企業が対策すべきトラブルは、自然災害だけではありません。機器の故障やサイバー攻撃も、企業に重大な損害を与える可能性があります。DX化が進んでいる現代では、さまざまな情報セキュリティリスクがあるため、データのバックアップだけではなく、システム障害対策になる冗長化が必要です。
冗長化の3つのメリット
冗長化のメリットは、以下の3つです。
- 障害が起きたときにすぐ対応できる
- システムの負荷を分散する
- BCP対策につながる
メリットを確認して、自社に必要かどうかを判断する際の参考にしてください。
障害が起きたときにすぐ対応できる
冗長化は、システム障害が発生した際に、自社の対応をサポートしてくれる重要な取り組みです。システム障害が発生すれば、復旧作業が完了するまで業務ができない場合が多くあります。冗長化をしていれば、システム障害が発生した際に予備のシステムやネットワーク回線へ切り替わり、システムの稼働を継続できます。
予備のシステムが稼働している間に必要な対応をすれば、システム障害による被害を最小限に抑えられるでしょう。トラブルが発生した際の対応も減らせるため、企業のセキュリティ対策の強化に有効です。
システムの負荷を分散する
冗長化を利用すれば、システムへの負荷を分散できます。アクセスが集中したり、膨大なデータを処理したりする場合は、システムへの負荷が大きくなり、処理の遅延や一時停止を招く恐れがあります。冗長化を活用すれば、複数のサーバーで負荷を分散でき、安定した稼働が可能です。サイバー攻撃のなかで主流となっているDoS攻撃(※1)やDDoS攻撃(※2)の対策としても役立ちます。
※1. DoS攻撃:1つのパソコンから攻撃対象に大きな負荷を与えて、サービスを停止させること
※2. DDoS攻撃:複数のパソコンから攻撃対象に大きな負荷を与えて、サービスを停止させること
BCP対策につながる
冗長化は、BCP対策として有効な方法の1つです。BCP(事業継続計画)は、自然災害やサイバー攻撃などのトラブルによる損害を最小限に抑えて、事業の継続もしくは早期復旧をするための方法を記した計画です。冗長化をしておけば、緊急事態において企業に与える被害を最小限に抑え、システムの早期復旧に役立ちます。
冗長化の2つのデメリット
冗長化のデメリットは、以下の2つです。
- コストがかかる
- 労力が増える
デメリットを確認して、自社で実施すべきかどうかを判断する際の参考にしてください。
コストがかかる
冗長化をするには、多くのコストが必要です。常用するシステムとは別に、同じスペックのシステムを用意しなければならないため、システム構築におけるコストの増加は避けられません。仮に冗長化のためにサーバーを2台にすれば、コストも2倍かかります。
また、負荷分散や自動切り替えの構築もする場合、より多くのコストが必要です。冗長化をする際は、すべての事業やシステムを対象にせず、コストがかかっても停止させてはならないものに限定するとよいでしょう。
労力が増える
冗長化をするために予備のシステムを準備すれば、運用・保守に必要な労力が増えます。緊急事態の際に予備のシステムを活用するには、内部のデータも含めて、常用のシステムと常に同じ状態を維持しなければなりません。ソフトウェアやOSなどのアップデートをしたり、新しいデータを保存したりするなど、システムを更新する度に作業が必要です。
冗長化を実施する際の4つの構成
冗長化には、常用のシステムと予備のシステムの稼働方法によって、4つの構成があります。冗長化を実施する際の4つの構成は、以下の通りです。
- アクティブ・スタンバイ構成
- アクティブ・アクティブ構成
- マスター・スレーブ構成
- マルチマスター構成
構成を確認して、冗長化の理解を深めましょう。
アクティブ・スタンバイ構成
アクティブ・スタンバイ構成は、常用のシステムと予備のシステムを準備して、トラブルが発生した際に自動でシステムを切り替える構成です。アクティブ・スタンバイ構成では、障害によって常用のシステムが停止しても、予備のシステムに切り替えて、処理を引き継げます。トラブルが発生した際に自動でシステムを切り替えるには、常に予備のシステムを待機状態にしなければなりません。
アクティブ・スタンバイ構成には、以下のような2つの種類があります。
- ホットスタンバイ:予備のシステムの電源を常に入れて、常用のシステムと同期させる
- コールドスタンバイ:トラブルが発生した場合にのみ、予備のシステムの電源を入れる
ホットスタンバイは、トラブルが発生した際のシステムの切り替えが早い点が特徴です。コールドスタンバイは、ホットスタンバイと比較してシステムの切り替えに時間がかかりますが、運用コストを安くできます。ホットスタンバイは重要なシステムに利用して、重要度の高くないシステムにコールドスタンバイを採用すれば、運用コストを抑えながら、安定したシステムの稼働を実現できるでしょう。
アクティブ・アクティブ構成
アクティブ・アクティブ構成は、準備している予備のシステムを常に稼働させる構成です。予備のシステムをすべて稼働させるため、トラブルが発生していない場合には、システムへの負荷を分散する目的で利用できます。また、いずれかの予備のシステムにトラブルが発生した際は、ほかのシステムで処理を継続できます。アクセスが集中しやすい期間や時間帯があるシステムにおいて、有効な冗長化の構成です。
マスター・スレーブ構成
マスター・スレーブ構成は、1つのシステムを管理・制御用として運用し、準備している予備のシステムをすべて稼働させる構成です。すべてのシステムを管理・制御するものを「マスター機」と呼び、管理・制御されるシステムを「スレーブ機」と呼びます。
平常時は、データの参照や読み書きなどをマスター機が行い、マスター機にあるデータの同期をスレーブ機が担います。万が一マスター機に障害が発生した際は、スレーブ機の1つがマスター機に切り替わり、処理を実行する仕組みです。
マスター機とスレーブ機の切り替えにはダウンタイム(※1)が生じるため、短時間であっても一時的なシステムの停止は避けられません。また、スレーブ機に付与されている権限は、データの参照に限られています。別途設定をしなければ、基本的にデータの書き込みができないため、注意が必要です。
※1. ダウンタイム:メンテナンスや故障などを理由に、システムが停止している時間のこと
マルチマスター構成
マルチマスター構成は、マスター機と同様の権限をすべてのシステムに付与して、稼働させる構成です。すべてのシステムがマスター機として稼働するため、特別な処理をしなくても、データの参照・書き込みができます。マルチマスター構成では、システムの切り替えによって生じるダウンタイムはありませんが、システム同士のデータの整合性を維持しにくく、運用コストが膨らみやすいというデメリットがあります。
冗長化することが多い3つのシステム
ビジネスにおいて冗長化することが多いシステムは、以下の3つです。
- サーバー
- ネットワーク
- ストレージ
冗長化する理由と効果を確認して、自社で実施する際の参考にしましょう。
サーバー
サーバーは、冗長化するシステムとして代表的なものの1つです。仮にサーバーでトラブルが発生した場合、システム全体の停止や故障といった重大な被害を招く恐れがあります。また、サーバーは、サイバー攻撃の標的にもなりやすいため、万が一に備えた対策が欠かせません。
冗長化をすれば、サーバー内のトラブルやサイバー攻撃による被害の防止につながります。サーバーを冗長化する方法は、物理サーバーの設置・運用に限りません。クラウド上のサーバーを活用して、コスト削減をしながら、保守管理の手間と時間を軽減させる方法もあります。
ネットワーク
ネットワークは、冗長化されるケースが多いシステムです。デジタル技術がビジネスで広く活用されている現代では、万が一ネットワークに障害が発生した場合、業務の遅延や停止を招く可能性があります。ほとんどの業務をクラウド上で進めている企業であれば、被害はより大きくなるでしょう。常用しているネットワークとは別に、予備のネットワークを準備して、さまざまなトラブルに備えた対策が必要です。
ストレージ
ストレージは、多くの企業が冗長化を進めているシステムの1つです。企業は機密情報を含めた膨大なデータを扱っており、ストレージで保管しています。仮にメインで利用しているストレージへ不具合や故障でアクセスできなくなった場合、業務の遅延や停止につながるでしょう。
システムの運用や業務に直接関係なく、重要度の低いデータは、定期的なバックアップで問題ありませんが、重要なデータはより万全な対策が必要です。保管しているデータの破損や紛失による損害が大きくなると想定されるストレージは、冗長化の実施をおすすめします。
冗長化ならGoogle Cloudがおすすめ
自社の冗長化を進める場合は「Google Cloud」の導入がおすすめです。Google Cloudは、Googleが開発したクラウドサービスの総称です。高いセキュリティ性やパフォーマンスを発揮でき、複数の予備システムを利用した強力な冗長化を手軽に実行できます。
また、Google Cloudは稼働率(※1)が高いため、障害が発生しにくく、企業のより安定したシステム運用に貢献します。導入コストが不要で、即時利用を開始できる点も大きな特徴です。電算システムが無料で提供している「Google Cloudと電算システムのご紹介」という資料では、Google Cloudの概要や各サービスについてわかりやすく紹介しています。
業務の冗長化を検討している企業さまやクラウドサービスについて情報収集している企業さまは、ぜひ以下のリンク先からダウンロードしてみてください。
株式会社電算システム「Google Cloudと電算システムのご紹介」
※1. 稼働率:システムが稼働しているすべての期間に対して、正常に稼働している期間の割合
メリット・デメリットを把握して冗長化を進めよう
冗長化は、システムやコンピューター、ほかの機器に障害が発生した場合の対策として、既存の設備と同じものを運用・管理する取り組みです。緊急事態が発生した際のリスクマネジメントとして役立ちます。冗長化をするメリットは、以下の通りです。
- 障害が起きたときにすぐ対応できる
- システムの負荷を分散する
- BCP対策につながる
冗長化は、膨大なデータ処理が必要になった際に、システムの負荷を分散して、安定した稼働をサポートします。緊急事態だけではなく、平常時のシステム運用においても役立つため、コストがかかったとしても、実施する価値が十分にあります。冗長化が必要なシステムを慎重に検討して、自社のセキュリティ対策を強化しましょう。冗長化を進めたい企業さまや検討している企業さまは、ぜひ以下の資料をダウンロードしてください。
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