「これからの時代ではデータ分析や活用が重要だ!」というフレーズは、耳にタコができるほどよく聞くものです。実際にデータ活用によって変貌した企業は存在しますし、世界的な大きな流れとして企業にとってデータ活用は欠かせないものというのも理解できます。しかし、実際にデータ活用によって企業はどのように変化するのか?この具体的なイメージができていないがために、積極的に取り組めない経営者も多いのではないでしょうか。今回は、そうした方々に向けてデータの活用シーンや、データ活用によって変化した企業の事例などをご紹介します。
広範囲に渡るデータの活用シーン
データの活用シーンはおそらく、皆さんが想像するよりも広範囲に渡っており、必要なデータさえ手元に揃っていればどの企業でもデータ活用に取り組むことができます。ここではまず、大まかな活用シーンをご紹介します。
製造業での活用シーン
製造業ではインダストリー4.0をはじめデータ活用に対して非常に積極的であり、データとIoT(Internet of Things/物のインターネット)、そしてAI(Artificial Intelligence/人工知能)を組み合わせたソリューションを多数輩出しています。最近特に注目されているのは、これらのソリューションを活用した「予知保全システム」の運用です。
これまでの保全活動では、設備に何らかのトラブルが発生した際の事後保全と、スケジュールに従って定期的にメンテナンスを施す予防保全によって成り立っています。これらの保全活動で設備に起きるトラブルを完全に防ぐことは難しく、一定時間の生産停止を余儀なくされます。
一方、予知保全とは設備に搭載したセンサーによりIoT化し、そこから得られる膨大なデータをAIに解析させることトラブルの兆しとなる情報を視覚化する新しい保全活動の形です。このソリューションを活用してフィールドサービスから新しいビジネスモデルを創出した製造業もあります。
小売業での活用シーン
小売業もまた、データ活用に積極的な産業の一つです。主に活用されるシーンは「顧客分析」です。小売業では顧客の行動次第で売り上げが大きく変化することから、顧客が今何を考え、何を欲しているか?という視点に全力が注がれます。
例えば売上データと顧客データを統合・分析することで、顧客をパターン別に細かく分けてセグメントごとに最適なマーケティングを実施したりします。ECサイトにおいては、商品のレコメンド機能(別の商品をお勧めする機能)にデータ活用が大きく貢献しており、データが積み上がるほど精度の高いレコメンドによって売上アップを目指すことが可能です。
この他、在庫管理や仕入・調達計画にもデータが活用されており、棚卸在庫を圧縮することでキャッシュフローの改善を目指す企業もあります。
飲食業での活用シーン
飲食業におけるデータ活用はあまり聞かないという方も多いでしょう。しかし、生存競争が激しいだけにデータをうまく活用できるかどうかが勝敗の分かれ目になります。これまでの飲食業では過去の来店客数からピークを想定することしかできないため、主に人材リソースの分配が不利な状態でした。
一方、データを活用している飲食業では過去の来店客数の他にもあらゆるデータを掛け合わせて分析することで、精度の高い来客分析を行い、日々最適な人材リソースを分配することで最小限の投資でサービス品質を最大化できる特徴があります。
また、付近で飲食店を探している人のスマートフォンに最適なタイミングで広告やクーポンを配信したりと、マーケティングをダイナミックに展開できるのも大きな強みです。
金融業での活用シーン
金融業でのデータ活用は先進的であり、経営面で参考にできる点が多くあります。現在ではメガバンクを中心にデータとクラウドコンピューティング、そしてAIを活用することでリスク計算の処理にかかる時間を圧倒的に削減しながら、リスクマネジメントの精度を大幅に向上してオペレーション負担の軽減に貢献しています。
さらに、様々な分析手法を組み合わせることで支店を出店する際の商圏分析などを徹底し、最適なロケーションを見つけることも可能です。金融業では現在、データに加えてRPA(Robotic Process Automation/ロボティック・プロセス・オートメーション)の活用にも積極的であり、今後も参考になる先進事例が多く輩出されることでしょう。
農業での活用シーン
データ活用とは程遠く、日々の地道な積み重ねによって安心安全な食材を作り上げる農業においても、すでにデータ活用はスタートしています。農地に設置したセンサーから得られた気温、日射量、雨量などのデータをクラウドコンピューティングを通じて分析することで、これまで難しかった収穫・出荷計画の視覚化に貢献します。
さらに、気象データなども解析することで農作物に対するリスクを予測し、事前の対策を取ることで農作物を守ったり、専門家が持つ技術や知識をデータ化し、そのノウハウを新しい就農者等に共有することで農業全体の活性化にも貢献します。
データ活用の事例
それでは、データ活用に積極的な企業はどのようにデータを活用し、どのような変化を遂げているのでしょうか?具体的な活用事例を2つご紹介します。
旭酒造 / 獺祭(だっさい)
今では全国のドラッグストアでも見かけるほどポピュラーな酒として親しまれている「獺祭」を製造するのは、山口県旭市に酒蔵を構える旭酒造です。この蔵元では獺祭の原料となる酒造好適米の「山田錦」の調達安定化を目的として、山田錦の栽培における作業実績や圃場の各種環境をセンサーデータとして収集・分析し、栽培成績の良かった作業実績をベストプラクティスとして活用しています。さらに、施設園芸では気象データから生育や収穫を予測することで、室温コントロールを行い無駄をなくし、コスト削減に繋げています。
大阪ガス / ビジネスアナリシスセンター
近畿2府4県の約700万戸にガスを供給している一般ガス事業者の大阪ガスは、分析力を武器としてビジネスに貢献する専門部署「ビジネスアナリシスセンター」を設置しています。本センターではデータ分析の専門家9名から構成されており、各メンバーは関係部署を連携して分析力による問題解決に取り組み、社内の様々な業務効率化やサービス向上に大きく貢献しています。例えば、業務用車両の待機拠点を決めるにあたり、自動車メーカーが車載GPSで収集した詳細な渋滞データを活用することで効果的な配置を実現しています。
酒造会社もガス自業者も意外なデータ活用事例ですが、これらの事例が示す通りデータ活用は多くの産業に拡大しています。では、自社においてデータ活用を実施するポイントとは何か?それはまず、データ活用の基本を知り、その上で様々なアイディアを創出することで企業ごとにマッチしたデータ活用を探すことです。どんな企業にも必ず最適なデータ活用の形があり、一様な取り組みに固執する必要はありません。「データ活用ではこんなことができる」「こんな技術が併用できる」などの基本を押さえて、自社にマッチするデータ活用の形を探し出して見てはいかがでしょうか。