学校でのICT活用に訪れたさまざまな変化を、Google との出会いを切り口に語る本シリーズ。
今回は神奈川県鎌倉市立岩瀬中学校の 仲井間 善之 先生にインタビューしました。
教員生活は21年目となります。
現在は岩瀬中学校で理科を教えながら総括教諭、1年生学年代表、情報教育推進などの役割を担っています。
Googleとわたし
仲井間さんの Google との出会いは何がきっかけだったのでしょうか?
コロナ禍以前は、いわゆる「チョーク & トーク」の一斉授業と実験で授業展開をする教員でした。
しかし、コロナ禍により思いもよらずに「2ヶ月」という時間が失われました。その結果、中学3年生の授業が終わらなくなることへの危惧から、何かできることはないかと考え予習動画の作成をはじめました。
70本程度の動画を YouTube にアップして生徒たちへ配信しました。YouTube が 私にとっての Google を教育活動に取り入れる出会いですね。すべての生徒が予習動画を見てくれるわけではありませんでしたが、複数名の生徒が事前に視聴して予習してくれていたので、その後の授業では、その生徒たちがファシリテーターとなり進行するという新たな授業デザインがはじまりました。
「チョーク&トーク」から動画作成とは随分と飛躍しましたね
「平等に配信できないならばICTを使わない」という当時の風潮やSNSで見かけた言葉がキッカケでした。
当時、塾などではビデオ会議などのICTをフル活用して、生徒の細かなサポートを実施していました。しかし、学校ではそこまでの対応ができていなかった。それならば「やってやろう」と心に火がついた感じですね。
最初は黒板の前で授業をやりながら録画という方法を試したのですが、10分の動画を作成するのに60分以上かかってしまったり、思ったよりも長い時間の動画ができてしまったりと、なかなかうまくいきませんでした。
いろいろと試行錯誤した結果、プレゼンテーションソフトで作成したスライドに音声を吹き込む形式に落ち着きました。まだ Google アカウントが配付される前のことで、全て自分の個人アカウントで実施していました。
出会いが学びを進化させる
ICTを使い始めた仲井間先生のさらなる進化のキッカケは何ですか?
2020年9月に前回のこのブログでも紹介されている「村松先生」に出会ったことが大きな転機となりました。
PTA関連のイベントで部活動の話を頼まれたのですが、その時にご一緒させていただいたのが元逗子市教育長の 村松 雅 さんでした。卓球部の顧問でもあった私は様々なお話ができ、この日がキッカケで村松先生には当時の勤務校の部活動指導にも来ていただきました。
当然ICT関連の話にもなり、村松さんが作っているFacebookグループに参加させていただくことに。
そこから一気に様々なことが動き始めた感覚を持っています。
↑元逗子市教育長・村松 雅さんとの学びの一コマ
特に「デジタル・シティズンシップ」を学んだオンライン講演会で国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの 豊福 晋平 先生に出会ったことが衝撃でした。
生活指導を長くやっていた自分にとって、この講演会での「学習者中心の学び」の話は価値観を壊されたとすら感じています。
信頼ベースの教育活動、そのためのデジタル・シティズンシップ。聞く話全てが新鮮で、衝撃的で、すぐに豊福先生のFacebookの友達リクエストを飛ばしていました。さらに、この時の話があまりに良かったので、すぐに多くの人たちと共有しようと思ったのですが、なかなか理解を得ることは難しかったです。
ただ、二人との出会いが私を進化させてくれました。学ぶ意欲を刺激していただき、その後は本を読んだり、各地の勉強会に出かけたりと、さらに学びを深めていきました。
そして、いよいよGoogleアカウントが配布されるわけですね。
デジタル・ディバイドのない世界。
そのために Googleアカウント を配付し、みんなのプラットフォームとしての Google 運用が開始されました。
当時の勤務校で、研究テーマを「ICT」に設定し、研修会を実施することを検討しました。どういった方に講師を依頼しようか鎌倉市教育委員会に相談すると、岩岡 寛人教育長(当時)から、ICTを文具として使うという考え方を持っている平井 聡一郎 先生(現合同会社未来教育デザイン代表社員)を紹介していただきました。この出会いも私にとっては非常に大きな転機となりました。
突然YouTubeに動画をアップしてから短期間で全国的にも有名な先生方から学ぶことができ、加速度的に自分をアップデートしながら学ぶ環境は「鎌倉市」ならではだったかもしれません。
Google 運用をはじめて感じたことはありますか?
一番は「生徒たちと同じものが使える」という点ですね。
今までは文書作成ソフトで作ったプリントを紙で渡して、生徒はその紙を使っているのに教員は黒板やプロジェクターを使う。それが Googleアカウント と端末があれば、同じものを使えるし、同じものを共有もできる。これが衝撃的でした。
Google 運用の利点で「共有」というのはよく聞きますが、「同じものをつかえる」と表現するのを初めて聞きました。
養護学校での勤務経験もあるので、インクルーシヴやユニバーサルデザインの視点も大事にしています。
同じもので、同じ画面を見ながら、同じツールを使ってというのが学びやすい生徒たちもいる。
「同じ」ということがネガティブに聞こえるかもしれませんが、「同じ」という利点もたくさんある。
「同じ」ということが駄目という訳ではないと思うのです。
教科を教えることが楽しかったが・・・・
運用が進み、いま感じていることは何ですか?
いままでは「教科を教える」ということを意識していた自分に気がつきました。
理科を教えることが本当に楽しかった。
しかし、生徒たちが端末を持ち、各個人がアカウントを持っている。このことによって「生徒たちが自分で学び取れる機会が増えた」と感じています。
そうした場面に触れ続けたことで「教科を教えることの必要性」について考えるようになりました。教科の知識は本当に「全ての人たちに必要なこと」なのかと自問自答するようになり、大事なことは何かを考えるようになりました。
いわゆる情報活用能力といわれる「課題設定力」や「情報収集力」など学び方を教える方が重要なのではないかという視点に変わっていきました。
今では生徒たちが授業を前進させてくれています。いわゆる「教えない授業」という感じですかね。
私が話をする時間がすごく短くなりました。少しずつですが手応えを感じています。
チョーク&トークから動画、そして教えない授業。次に見ているものは何ですか?
村松先生、豊福先生、平井先生と素晴らしい先生方との出会いで自分の世界が変化してきました。さらにICTのおかげでオンラインで多くの人たちと繋がり、学ぶことができるのが楽しいです。対面でのイベントにも積極的に参加しています。
22年10月に、国際大学GLOCOMが主催した「Future Learning Lab」に参加させていただきました。そこで「学びの社会化」という言葉に出会い「次はこれだな」と感じました。生徒たちの学びをどうやって社会に繋げていくのか。ここに面白さがあると思っています。
いまの生徒たちは先生以外からも学べる環境が端末やインターネットがあることで広がっています。生徒たちが「学ぶ相手を選ぶこと」ができ、それが先生だけでなく地域の人や社会で活躍する人だってよいと思うのです。
子供達には潜在的に「学ぶ欲求」があると考えています。ただ「何を学べばよいか分からない」という生徒たちも多くいます。そんな生徒たちに「少しのキッカケ」を与えたい。
教科の枠を飛び出して、地域の課題や社会の課題に向き合って見て欲しい。いま総合的な学習の時間がとても楽しく充実しています。
なによりも、仲井間先生が楽しそうですね。
テクノロジーを使うことで広がった世界が間違いなくあります。そして、生徒を信頼して任せたことで見える別の世界が間違いなくあります。
みんなで楽しく、信頼した生徒たちが自由に学びに向き合っている瞬間をみると「素敵だな」と素直に思うのです。もちろん課題もたくさんありますが、そうした素敵な時間を少しでも増やしていきたいと考えています。
執筆者紹介
公立中学校、私立高校、私立中高一貫校などに非常勤講師として勤務後、2008年より公立学校に正規職員として着任。
神奈川県立鎌倉養護学校(現神奈川県立鎌倉支援学校)に5年間勤務、鎌倉市立深沢中学校に10年間勤務後、現職。
理科の授業は、単元のゴールを明確にした上で生徒の学習が個性化するように伴走し、必要な指導を個別に行っている。学習成果物を共有し、協働的に学ぶ中でそれぞれの生徒が、それぞれの深い学びに向かえるように指導をしている。
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