近年、生成AI技術が飛躍的に進化しており、様々な分野で活用されています。様々な企業が生成AIを取り入れ活用することで、業務効率化や事業拡大を達成しており、生成AIが新たなサービスの可能性を創出していると感じています。
そして、生成AIの機能を充分に体感するためには、膨大なデータが必要となってきます。企業の中には様々なデータが蓄積されていますが、一方でデータはそれぞれ様々なシステムに散らばっており、それを1つにまとめるには骨が折れることが想像できます。
そんなデータ活用に役立つサービスとして、「Vertex AI Search」というGoogleが提供する生成AI搭載の検索サービスが現在注目されています。本記事では「Vertex AI Search」について、特徴や料金から、メリットや使い方などを解説いたします。
Vertex AI SearchとはGoogle Cloudが提供する検索機能強化サービス
Vertex AI Search とは、Google CloudのVertex AIプラットフォームに搭載されている検索エンジンです。世界の検索エンジン市場でトップシェアを誇るGoogleの検索エンジンを活用しているため、高度な検索機能を備えています。
- セマンティック検索
・・・従来のキーワード検索とは異なり、単語の意味だけでなく、
同義語、類義語、関連する概念を考慮することで、
より精度の高い検索結果を提供できます。 - パーソナライズ
・・・ユーザーの過去の検索履歴や閲覧履歴などを分析し、
ユーザーのプロファイル情報を理解することで、
関連性の高いコンテンツを優先的に表示することができます。
また、Vertex AI Searchは様々なデータソースを利用することが可能です。BigQueryなどの構造化データだけでなく、ウェブサイトのデータやメディア向けの構造化データ(動画、ニュース記事、音楽ファイルなど)、非構造化データ(PDF、画像など)の多種多様なデータソースを統合し、検索対象にすることができます。
Vertex AI Searchの利用料金
Vertex AI Searchの料金体系は、利用する検索機能のクエリ回数+利用するオプションと、インデックス登録するデータ数に基づいた従量課金制となっています。
機能 |
料金 |
|
Search Standard エディション ※1 | 1,000 クエリあたり $2.00 | |
Search Enterprise エディション ※2 | 1,000 クエリあたり $4.00 | |
LLM アドオン ※3 | 基本: ※4 | 1,000 クエリあたり$4.00 追加 |
高度: ※5 | 1,000 クエリあたり$10.00 追加 | |
インデックス登録されたデータ | 1GBあたり$5.00 /月 ※1 か月あたり 10 GiB の無料割り当てを利用可能 |
※1 Search Standard エディション:非構造化検索機能
※2 Search Enterprise エディション:非構造化検索 + ウェブサイト検索機能
※3 Search Standard エディションまたは Search Enterprise エディションに追加する機能
※4 基本LLMアドオン:単純な単一/マルチターンクエリに回答と要約を提供
※5 高度LLMアドオン:マルチホップクエリに回答と要約を提供
なお、実際の料金は使用状況により変動しますので、より詳細な料金情報については、Vertex AI Search の料金に関する公式ページをご確認ください。
Vertex AI Searchにおける3つの特徴
Vertex AI Searchは高精度な検索機能だけでなく、それを補完する様々な特徴も持ち合わせています。
本章では、Vertex AI Searchの代表的な3つの特徴について解説します。
業種によって専門的なサービスが用意されている
Vertex AI Searchには、特定の業界に限られますが、その業界に特化した専門的なサービスが提供されています。これらの専門的なサービスは、Vertex AI Searchのコア機能に加え、各業界のニーズに合わせたデータモデルや検索アルゴリズムが提供されています。また、業界固有の要件に対応したテンプレートやAPIなども提供されるため、迅速に検索アプリケーションを構築することができ、カスタマイズや機能拡張も豊富です。主な専門的なサービスは以下の通りです。
- Vertex AI Search for Healthcare
・医療とライフ サイエンス分野
・医療情報の検索や医薬品情報、患者記録など、高度な精度とセキュリティが求められる情報を取り扱うサービス
・複雑な医療用語や略語も正確に理解することが可能 - Vertex AI Search for Media
・メディアやエンターテインメント分野
・動画、音楽、ニュース記事などのデジタルコンテンツの検索機能や、ユーザーの視聴聴取履歴に基づいたレコメンデーションに特化したサービス
・最新のニュースやトレンドも反映した検索結果を提供することが可能 - Vertex AI Search for Commerce(旧Vertex AI Search for Retail)
・小売業や eコマース分野
・商品の属性を考慮した検索機能や、顧客の購買履歴や閲覧履歴に基づいた商品提案に特化したサービス
RAGシステムとして機能する
RAG(Retrieval-Augmented Generation)システムとは、信頼性の高い情報ソースを基にデータを検索し、抽出した情報に基づいてLLM(大規模言語モデル)に回答させるシステムです。このシステムにおいて、Vertex AI Searchは情報検索・抽出の役割を担います。
Vertex AI Searchは高度な検索技術を持ち合わせているため、入力された質問に対して関連性の高い情報を正確に抽出できます。これにより、RAGシステムは高速かつ効率的な回答を生成することが可能です。
業界のコンプライアンスに準拠している
Vertex AI Searchは、HIPAAなどの医療業界のコンプライアンス標準や、SOC 2、ISO 27001などの国際的なセキュリティ認証など、様々な業界固有のコンプライアンス標準も満たしています。したがって、機密性の高いデータを扱う企業も安心して利用できる、安全で信頼性の高い検索サービスを提供しています。
また、Vertex AI Search にインプットしたデータは、許可なく外部に公開されたり、学習に利用されることはありません。データの暗号化や隔離、厳格なアクセス制御が行われているため、データのプライバシーとセキュリティを最優先に考えて取り扱われます。
Vertex AI Searchを利用する4つのメリット
従来の検索機能と比べ、Vertex AI Searchを選択することで得られる恩恵は多いです。
本章では、Vertex AI Searchの利点を4つのポイントに分けて解説します。
Google のテクノロジーで検索の精度が向上する
Vertex AI Searchは、Googleの先進的な検索技術を活用することで、高品質な検索機能を簡単に導入できるのが特徴です。Googleの長年にわたる専門的な知見とセマンティック検索の技術を組み合わせて設計されており、ユーザー向けに最も関連性の高い情報を効率的に提供します。
さらに、多彩なカスタマイズオプションが用意されているため、企業や組織の特定の要件に合わせた検索機能に調整することも可能です。業界や用途に応じた柔軟な設定により、より精度の高い検索結果を実現し、ユーザーの利便性を飛躍的に向上させることができます。
検索エンジンを簡単にセットアップできる
Vertex AI Searchは、企業や開発者が手軽に検索エンジンを構築できるサービスです。サービスの導入はシンプルな設定でできますし、ニーズに応じた検索機能のカスタマイズも柔軟に行えます。また、エンベディングという、データを自然言語処理に適した型として数値化する手法にも自動で調整できる機能を備えており、企業独自のデータに基づいたエンベディングにも対応しているため、より精度の高い検索結果を提供可能です。
また、最近では開発者がノーコードでインデックスを作成・デプロイできるようにアップデートされたことで、小規模なデータセットであればインデックス登録にかかる時間も従来の数時間から数分に短縮されたため、スムーズな運用が実現できます。
データの最新状態を維持できる
Vertex AI Searchは、Vertex AI Extensions というサービスと組み合わせることで、リアルタイムデータを処理する拡張機能を作成することができます。Vertex AI Extensionsは、LLMと外部システムを連携させることでLLMの能力を拡張する機能で、リアルタイムデータを取得したり、外部システム上でアクションを実行したり、ビジネスプロセスを自動化したりできるようになり、より幅広いタスクに対応できるようになります。
そのため、Vertex AI SearchとVertex AI Extensionsの連携でリアルタイムデータにアクセスすることで、RAGシステムが強化され、最新かつ正確な回答を生成できます。また、単なる検索結果のテキストを生成するだけでなく、検索結果に基づくデータ分析やアクションの実行など、より実用的なタスクの実行ができるようになります。
ドキュメント処理機能を利用できる
他にも、Vertex AI SearchとDocument AIというサービスを連携させることで、文書データをより高度に活用することができます。具体的には、Document AIのドキュメント処理機能を活用することで構造化データと非構造化データの両方を処理できるため、企業の業務フローを最適化し、作業の自動化を促進します。これにより、情報の整理がスムーズになり、業務の効率向上やプロセスの簡略化が実現します。これにより、検索だけでなくデータ活用の幅を広げ、より高度なビジネス環境を構築することが可能です。
Vertex AI Searchの使い方3選
Vertex AI Searchの特徴やメリットについて取り上げたところで、それを実際に使えるようにするための構築プロセスについて知る必要があります。
本章では、GUIを利用したノーコードでの構築についてご紹介します。
データをCloud Storageにアップロードする
Vertex AI Searchを使うための最初のステップとして、大量のデータの事前投入が前提となります。検索範囲となるドキュメントなどのデータと、それを格納するストレージを考える必要があります。データソースとなるストレージサービスとして最もシンプルなものは、Cloud Storageです。
まずはCloud Storageに「バケット」を作成し、検索対象となるデータをアップロードします。Cloud Storageは非構造化データも保存できるため、画像・動画・PDFなども保存できます。
検索アプリを作成する
データの格納が完了したら、Agent Builderにアクセスします。Agent Builder とは、ノーコードで生成AIを活用したエージェントやアプリを構築できるサービスです。初めて利用する際はAPIの有効化を求められるため、許可する必要があります。
画面上の「アプリを作成する」ボタンをクリックし、作成するアプリの種類で「検索とアシスタント」の中から選択します。
あとはガイドに従ってアプリ名などの基本設定を行います。
データストアを作成する
アプリ構成の設定後、データストアの選択となるため、「データストアを作成」ボタンをクリックし、データストアを作成します。インポート対象となるデータソースとデータの種類を選択し、データストアの構成を設定します。すべての設定が完了し、「作成」ボタンをクリックすると、データのインポートが実行されます。このインポートが完了すると、検索アプリが完成します。
Vertex AI Searchにおける2つの活用事例
アプリの使い方について理解したところで、実際にどのように活用されているのかについても知っておくと良いでしょう。
本章では、Vertex AI Searchの活用事例について2つご紹介します。
購入率・リピート率が向上した事例
小売業やメディア分野では、レコメンド機能を活用することで顧客満足度を向上させることに成功しています。
例えば、ある小売業者では、商品詳細ページやカートページに関連性の高い商品を表示したり、トップページや特集ページにユーザーの興味に合わせた商品を紹介するなど実践しました。この結果、ユーザーの購買意欲が触発され、購入率やリピート率が向上しました。
また、小売業者ではVertex AI Search for Commerce、メディア系ではVertex AI Search for Mediaなど、分野に特化したサービスを活用することで、より高度なレコメンデーションを実装することも可能です。
診断の精度が向上した事例
医療分野では、診断における情報検索の効率化と精度の向上が実現されています。
例えば、膨大な医療文献や患者記録から必要な情報を正確に取得することで、より適切な治療を迅速に行うことができたり、多様な患者データを統合することで患者の全体像を把握し、より的確な診断や治療計画を立てることができます。また、画像データと患者情報を組み合わせることで、画像分析による診断支援もより高い精度で行うことができます。
Vertex AI Searchで業務効率化・生産性向上を実現させよう
Vertex AI Searchとは、Google の検索技術と生成AIを組み合わせた革新的な検索サービスです。幅広い種類のデータソースに対応し、業界に特化した強力な検索機能と組み合わせることで、ユーザーの検索体験を向上させ、企業の業務効率化に貢献します。セマンティック検索や生成AIといった最新技術を駆使することで、従来の検索システムでは実現できなかったレベルの検索精度を提供します。
Google Cloudは、ビックデータやAI・機械学習に強いのが特徴です。Google Cloudを利用することで、サーバー管理の手間やコストを削減したり、自社でサーバーを使わずに大量のデータを保存することが可能となります。
電算では、Google Cloudの導入をサポートしています。Google Cloudや機械学習について詳しく知りたい方は、以下の資料をダウンロードしてみてください。
執筆者紹介

<保有資格>
・Associate Cloud Engineer
・Professional Cloud Developer
・Professional Cloud Architect
・Professional Cloud DevOps Engineer
・Professional Cloud Database Engineer
・Professional Cloud Security Engineer






監修者

<保有資格>
・Professional Data Engineer

- カテゴリ:
- Google Cloud(GCP)
- キーワード:
- vertex ai search