近年のビジネスシーンでは、クラウドサービスや業務システムなど、さまざまなデジタルツールが登場し、それだけ取得できるデータの種別も多岐にわたります。そのため、取得したデータをそのまま放置するのは、非常にもったいない行為だといえます。
ビッグデータの活用という言葉が注目されている昨今、いかに社内や社外のデータを駆使して、ビジネスチャンスを拡大できるかが重要です。しかし、データを活用しようにも、方法や手順がわからず悩んでいる方も多いでしょう。
そこで本記事では、データを効果的に活用するための方法や、他社の成功事例を紹介します。データを上手く活用すれば、戦略策定の質や意思決定のスピードが向上するため、ぜひ参考にしてください。
データ活用とは社内外のデータを意思決定や製品改良などに活かすこと
まずはデータ活用の概要や現状、データ分析との違いについて解説します。
データ活用の概要
データ活用とは、社内外から取得できるさまざまなデータを駆使して、意思決定や製品改良、戦略策定などに活かすことです。例えば、過去の販売データや製品の出荷量などを参考に将来的な需要を予測し、在庫量や発注量を最適化するような方法が挙げられます。
取得できるデータは一般的に、そのままの状態では意味を成しません。そのため、複数のデータ同士の関連性や法則性を見つけたり、活用できる状態に分析したりといった加工が必要です。
データを上手く活用できれば、ビジネスにおけるさまざまな課題に対する最適解を割り出せます。
データ活用の現状
総務省が発表した「デジタルデータの経済的価値の計測と活用の現状に関する調査研究の請負報告書(株式会社情報通信総合研究所)」を参考にすると、データ活用の現状が見えてきます。
参考:「デジタルデータの経済的価値の計測と活用の現状に関する調査研究の請負報告書(株式会社情報通信総合研究所)」
全体の比率を見ると、経営企画や製品開発、マーケティングの領域でデータ活用が進んでいることがわかります。また、業種では流通業やサービス業の水準が高めです。このような領域では、商品の販売動向や見込み客の行動傾向など、幅広いデータを取得できるため、データ活用と相性が良いといえるでしょう。
とはいえ、近年は業種や部門にかかわらず、クラウドサービスや業務システムなどからデータを取得できる機会が少なくありません。だからこそ、ビッグデータと呼ばれる膨大な量のデータをいかに活用すべきかが、近年の大きなビジネステーマとなっています。データの活用は、いまやすべての企業にとって必要不可欠な取り組みです。
データ活用とデータ分析の違い
データ活用とよく似た言葉にデータ分析があります。
データ分析とは、複数のデータ同士を特定の要素に分けて細分化し、新たな情報を生み出す方法です。例えば、顧客の購買頻度や購入金額などのデータをもとに、各顧客の優先度を割り出せます。
一方のデータ活用とは、データの収集から加工、分析、可視化までの一連のプロセスを示しています。そのため、データ分析はデータ活用のプロセスに含まれる一つの要素です。
分析をするためにはデータ収集用のプラットフォームを整備しなければならないほか、レポートなどの形で可視化することも重要となります。このような一貫した流れを形成する方法をデータ活用といいます。
データ活用時に用いる主なデータの種類
一概にデータ活用といっても、利用できるデータの種類は多岐にわたります。データ活用時に用いる主なデータの種類を理解したうえで、自社の目的や用途に応じて必要なデータを選別しましょう。
社内で収集できるデータ
社内で収集できるデータには次のような種類があります。
- 売上データ:売上高・販売数・顧客単価など
- 顧客データ:属性情報・行動履歴情報・問い合わせ内容など
- 商談データ:商談件数・成約率・失注率など
- 広告データ:クリック率・コンバージョン率・顧客獲得単価など
- 製品データ:仕様情報・部品情報・稼働状況など
- 業務データ:タスク内容・所要時間など
- 人事データ:従業員数・人件費・残業時間など
このようなデータはすべて「ファーストパーティデータ」と呼ばれています。企業と従業員、企業と顧客といったように、自社とステークホルダーとの関係性を示す情報が中心です。そのため、将来的な売上や利益、事業戦略など、自社ならではのアクションプランを策定する際に活用できます。
社内で収集できるデータ
社内だけでなく、社外で公開されているデータも活用が可能です。
そのうち、パートナー企業などの他社が収集したデータを「セカンドパーティデータ」といい、主にリサーチ会社や信用機関、金融機関などが提供しています。セカンドパーティデータの具体例は次の通りです。
- アンケートパネルデータ
- 位置情報
- 信用スコアリングデータ
- クレジットカードの使用履歴情報
など
また、国や自治体、公共機関などが一般的に公開しているデータは、「サードパーティデータ」と呼ばれています。サードパーティーデータには次のような種類があります。
- 統計資料
- 経済情勢データ
- 交通データ
- 気象データ
など
このような社外から収集できるデータは、自社と直接的な接点を持たない消費者の動向や、業界全体の傾向・トレンドなどを把握する際に役立ちます。
データ活用のメリット4選
データ活用のメリットは次の通りです。
- 意思決定のスピードや質が向上する
- 新たなビジネスチャンスを発見できる
- 顧客満足度の向上につながる
- 業務改善に役立てられる
ここでは、それぞれのメリットについて詳しく解説します。
意思決定のスピードや質が向上する
データを活用するにあたっては、販売状況や営業活動の進捗状況などが可視化されるため、現状を正確に把握できます。その結果、リアルタイムな情報にもとづいた迅速な意思決定が可能です。
また、客観的なデータを参考にすると、ビジネスを効率良く行うための最適解とその根拠が明確になります。意思決定のスピードだけでなく質向上につながるのもポイントです。
新たなビジネスチャンスを発見できる
データを活用する過程において、自社の強みや弱み、市場におけるポジションなどを分析する機会も少なくありません。すると、現状のビジネスモデルを見直すなかで、新たなビジネスチャンスを発見できる可能性があります。
ビジネスチャンスを見つけるには、自社だけで収集できるデータのみに着目するのではなく、世の中に公開されているデータにも目を向けることが大切です。市場全体の傾向やトレンドをしっかりと把握することで、これから自社が進むべき方向性を見極めやすくなります。
顧客満足度の向上につながる
データ活用を実践していくなかで、顧客の属性や行動傾向、商品やサービスに対するフィードバックなどの情報を取得できます。このような顧客情報を分析することで、消費者や見込み客のニーズが明らかになります。
客観的な分析を経て明らかとなったニーズは、製品やサービスの品質改善につながる大きなヒントです。顧客がより価値を感じる製品やサービスへと改良を繰り返せば、顧客満足度の向上につながるでしょう。結果としてロイヤルティやLTVが向上し、企業の持続的な成長に貢献します。
業務改善に役立てられる
データ活用は顧客向けだけでなく社内向けの施策にも適用できます。客観的なデータをもとに業務改善を行えば、業務効率化や生産性向上に寄与します。
例えば、店内にAI機能付きのカメラを設置すれば、スタッフの行動パターンをデータに落とし込むことが可能です。そのデータをもとに、スタッフが効率的に作業できる動線や商品棚の配置などを最適化できます。作業効率の向上によって余った時間を、コア業務に割り当てるのも一案です。
データ活用における課題3選
データ活用にはさまざまなメリットがある反面、次のような課題も存在します。
- 環境を整備するためのコストや手間がかかる
- ノウハウが不足していると十分な成果が得られない
- プライバシーの問題に抵触する恐れがある
このような課題を押さえれば、事前に適切な対策を立てられるでしょう。それぞれの課題やその対処法について以下で解説します。
環境を整備するためのコストや手間がかかる
データを活用するためには、専用の仕組みを実現できるシステムやツールを導入しなければなりません。データの収集や加工、分析など、それぞれのプロセスに適したシステムやツールが必要になるため、おのずとコストや手間が増えます。
そのため、費用対効果をしっかりと検証したうえで適切な予算を設定することが大切です。コストを吸収しきれない場合は、特定の部門や部署のみに範囲を絞るなど、スモールスタートを意識しましょう。
ノウハウが不足していると十分な成果が得られない
実践のために高度なノウハウが必要という点も、データ活用の課題の一つです。例えば、幅広い業務システム同士を上手く連携させる技術や、データ分析手法に関する知識などが求められます。社内にノウハウが不足していると十分な成果は期待できません。
データ活用を実践する際は、システムやツールなどのインフラ面よりも、まずは専門人材の採用・育成から始めるのがおすすめです。データ活用を担う専任チームを作る、従業員のスキルアップに向けた研修を行うなどの取り組みが欠かせません。
どうしても人材がそろわなければ、専門的な企業に業務の一部を委託するのも良いでしょう。
プライバシーの問題に抵触する恐れがある
特に消費者の個人情報を取り扱う際には、プライバシー問題に配慮が必要です。
企業の個人情報の取り扱いに関しては、学生に関する予測データを他社に販売していたリクナビや、Suicaデータの外販で炎上を繰り返したJR東日本など、これまでに何度も問題が発生しています。顧客からの信用を失くさないためにも、個人情報をみだりに公開しない、十分な権利を保証するといったガバナンス強化に向けた取り組みが必須です。
あわせて、サイバー攻撃などにより、意図せず個人情報が漏洩した場合でも、企業イメージの悪化につながるので注意すべきでしょう。データ活用時に用いるシステムやツールのセキュリティ対策を強化したり、明確なポリシーのもとでセキュリティ体制を整えたりと、安全性を高める取り組みが必要です。
データを効果的に活用するための5ステップ
データを活用する際には、次のような手順で進めていきます。
- 目的設定
- 分析テーマの決定
- データ収集
- データ分析と可視化
- アクションプランの実行・効果検証
各手順のポイントや進め方について解説します。
1. 目的設定
データ活用を進めるにあたっては、最初にゴールとなる目的を設定することが重要です。明確な目的があれば全社一丸となって施策に取り組めるほか、問題が起きた際でもスムーズな軌道修正を行いやすくなります。
データ活用の目的には次のようなものがあります。
- 担当者ごとのパフォーマンスを分析して営業成績を伸ばす
- 物流量を予測して工場内の半自動化を実現する
- 検査工程を最適化して製造コストを削減する
など
ただし、やみくもに目的を設定しようとしても、上手くいかない場合が多いものです。
そこでまずは、特定の部門や部署が抱えている課題を特定すると良いでしょう。その課題を達成するためにどのような取り組みが必要か、いつまでにどの程度の成果を上げれば良いのかといった点を検証すると、自社の内情に即した目的を設定できます。
2. 分析テーマの決定
データ活用では、収集したデータをいかに分析し、その結果をどのように活かすかが重要となります。一概に分析といっても、目的によって適したデータ種別や手段が異なるため、事前に分析テーマを決めましょう。
- どのようなデータを扱うのか(顧客情報や従業員データなど)
- どのような分析手法を活用するのか(クラスター分析やPEST分析など)
- データ分析および分析結果の可視化にどのようなツールを用いるのか
同時に収集すべきデータの種類を決めておくのも良いでしょう。
社内外のあらゆるデータを収集しようとしても、コストや手間の観点から実現が難しいものです。目的を達成するために必要な情報のみに絞り込むことで、効率的かつ効果的にデータ収集を進められます。
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3. データ収集
分析テーマにもとづき必要なデータを収集します。
データの収集方法には次のような種類があります。
- CookieをもとにWebサイトやモバイルアプリのデータを収集
- EC・SNSプラットフォームなどが公開しているAPIの活用
- SNSの投稿やECのレビューなどを抽出するスクレイピング
- データ提供サイトなどWeb上からダウンロード
データを収集するうえで特定のツールを使用するケースも珍しくありません。例えば、Webサイトのアクセス数やユーザー属性などを調べる際は、Googleアナリティクスをはじめとするアクセス解析ツールが役立ちます。
あらかじめデータ収集手段を洗い出しておくと、データ活用のプロセスをスムーズに進められます。
4. データ分析と可視化
収集したデータを分析しやすいように加工し、データ分析を実施します。
データ分析には、エクセルやGoogleスプレッドシートを利用できるが、関数やマクロなどの知識が必要なほか、データ量が多くなると手間がかかりやすい傾向があります。そのため、分析に関するノウハウが不足している、ビッグデータ解析のような大容量の情報を取り扱うといったケースでは、分析専用のBIツールを導入するのも一案です。
BIツールは、ドラッグ&ドロップの操作のみで容易にデータ分析を行える製品も少なくありません。また、グラフ表示やレポートへの出力などの処理を自動化できるため、手間を最小限に抑えられるのもメリットです。
5. アクションプランの実行・効果検証
分析結果にもとづき、具体的な行動をまとめたアクションプランを策定します。ただし、施策を実施して終わりではなく、繰り返し効果検証を行うことが大切です。
データ分析を経て入念にアクションプランを設計しても、最初から想定通りの成果が現れるとは限りません。そのため、目標と実績との差を比較し、不足する箇所や課題があれば、何度も改善することが重要です。
データ活用の成功事例
データ活用の事例を参考にすると、目的の立て方やデータ分析の進め方などをイメージしやすくなります。以下で成功事例を複数紹介しているので、データ活用の具体的なイメージを固めましょう。
データ活用でサプライチェーンを最適化した花王の事例
花王株式会社では、各物流拠点から得られるデータを販売や調達、生産などの計画立案に活用しています。
例えば、過去の売上データや季節変動のトレンドなどをもとに、将来的な製品の出荷数を予測しています。経験や勘を頼りとする従来の方法と比べ、出荷数予測の精度を高めることが可能です。また、過去の出荷実績や生産実績を参考に、生産量を調整しているのも特徴の一つです。
幅広い領域から取得できるデータを活用することで、サプライチェーン全体の最適化につながっています。
参考:データを駆使してサプライチェーンを最適化 物流DXを目指す花王のアクション|IT Leaders
広告戦略を大幅に見直したしまむらの事例
株式会社しまむらでは、従来のアナログ広告からWeb広告へと、広告戦略を大きくシフトチェンジしている点に特徴があります。広告戦略を見直したのは、テレビの視聴者数や新聞の部数が年々減少していたためです。
その後は、デジタル販促を拡充するためにLINEチラシを活用したり、Z世代向けにTikTokで積極的にコンテンツを発信したりと、さまざまな施策を展開しています。
このような施策が功を奏し、2023年2月期の連結決算では過去最高の売上と利益を達成しました。広告事業のデータを有効活用し、大胆な戦略転換を図った好例だといえるでしょう。
参考:売上苦戦していた「しまむら」なぜ復活?「しまパト」「しまラー」という画期的システムが果たした役割|ITmediaビジネスONLINE
効率良くデータ活用を実践するための基盤や環境を整えよう
社内に蓄積されたさまざまなデータを活用するには、データの収集や分析に必要な環境を整える必要があります。しかし、データ収集や分析といったプロセスごとに適切なツールが異なります。また、専門的な人材やノウハウ、組織の体制整備なども欠かせません。
最初から組織全体の環境を変えようとしても、思うように進まないケースも珍しくありません。そのため、段階的に施策を拡大することを踏まえ、スモールスタートを意識して取り組み始めるのがおすすめです。今回紹介したデータ活用の手順やポイントを参考に、自社に合った進め方を検討してみてください。
より実践的なデータ活用方法は以下の資料で紹介しています。収集・加工すべきデータの種類や、体制整備の方策など、具体的かつ体系的な知識を習得できます。無料でダウンロードできるため、「どのように始めれば良いかわからない」「環境をどうやって整備すべきか」と悩んでいる方は参考にしてください。
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