最近では、ChatGPTやGeminiといった生成AIをビジネスシーンに採り入れている企業も多いのではないでしょうか。生成AIは、プロンプト(テキストによる指示)に含まれた自然文を理解したうえで、文章の作成や質問への回答、プログラミングコードのバグチェックなどの作業を行えるため、いまや組織の業務効率化には欠かせないサービスだといえます。
自然文を理解し、適切な文章を出力する生成AIには、大規模言語モデルと呼ばれる技術が用いられています。AIの根底を支える技術ともいえるため、その仕組みを理解したうえで適切な活用方法を検討することが大切です。
本記事では、大規模言語モデルの特徴や仕組み、活用例、利用時の注意点などを解説します。これからAI関連サービスの導入を考えている方は、ぜひ参考にしてください。
大規模言語モデル(LLM)とは機械学習の自然言語処理モデルの一つ
まずは大規模言語モデルの特徴や、従来の言語モデルからどのように進化したのか、よく似た用語との違いを解説します。
そもそも言語モデルとは
言語モデルとは、文章や単語の出現確率をもとに構築されたモデルのことです。
言語モデルでは、人間が用いる表現や意味を理解したうえで、次に続く単語を予測します。自然な会話や文章には高い確率を割り当て、成立しにくい単語の並びには低い確率を付与するのが特徴です。候補のなかから最も確率の高い単語の組み合わせを選択することで、違和感のない文章を生成します。
例えば、「私の年齢は」というテキストの後に続く単語について、「45歳です」や「30代です」などは確率が高く、反対に「鈴木です」や「医者です」などは確率が低いと予測するようなイメージです。このように単語の出現確率を統計的に解析することで、人間の言語を理解し、予測できるようになります。
大規模言語モデルの特徴
大規模言語モデル(LLM:Large Language Models)とは、大量のテキストデータと高度なディープラーニング技術を活用して構築された、自然言語処理(NLP:Natural Language Processing)の分野における革新的な技術です。
従来の言語モデルと比べて、計算量(コンピューターが処理する作業量)やデータ量(入力された情報の規模)、パラメータ数(ディープラーニング技術における係数の集合)の3つの要素を大幅に強化することで、より高度な言語理解を可能にしています。大規模言語モデルはファインチューニングを施すことで、テキスト分類や感情分析、情報抽出、文章要約、テキスト生成、質問応答など、多様な自然言語処理タスクに適応できます。
生成AIやChatGPTとの違い
生成AIとは、プロンプトと呼ばれる指示を与えることで、AIがテキストや画像、音声、動画といった独自のコンテンツを生み出せる技術です。そして、ChatGPTは、生成AIの数あるサービスの一つに分類されています。つまり、生成AIはAI技術の一種であり、それを体現できる具体的なサービスとしてChatGPTが存在します。
一方の大規模言語モデルは、生成AIをはじめとするAI技術を支えるモデルの一つです。生成AIにも組み込まれており、大規模言語モデルによって人間の話し言葉や書き言葉を正確に理解することで、自然な文章でのテキスト生成が可能になります。
大規模言語モデルの仕組み
大規模言語モデルの仕組みは、次の4つの手順によって成り立っています。
- トークン化
- ベクトル化
- ニューラルネットワークを用いた学習
- 文脈の解釈と出力
それぞれの手順や基本的な仕組みを把握して、大規模言語モデルを適切に活用しましょう。
1. トークン化
トークン化とは、テキストデータをコンピュータが扱いやすいように、小さな言語単位であるトークンに分割する処理のことです。トークンは単語や句読点、記号など、テキストデータを構成する最小単位の要素を指します。
テキストデータはそのままの状態だとコンピュータにとって理解しにくいため、数値データへと変換する必要があります。トークン化は、その変換を行う前の準備段階として実施されます。トークン化を行うことで、コンピュータがテキストデータを効率的に処理できるようになり、機械学習モデルの精度向上にも寄与します。
2. ベクトル化
ベクトル化とは、トークン化されたデータを数値のベクトルへと変換する処理のことです。
トークン化によって分割されたデータは、そのままではコンピュータが解析できないため、ベクトル化によってトークンを数値データに変換することで、コンピュータが情報を処理できるようになります。この処理を通じて、コンピュータはトークンを数値として扱えるようになり、より高度な言語理解が可能です。
3. ニューラルネットワークを用いた学習
ニューラルネットワークは大規模言語モデルの中核をなす要素であり、多層構造を持つ複雑な仕組みとなっています。テキストデータがニューラルネットワークを通過する際、各層でデータは変換・調整されながら処理されます。この過程を通じて、モデルは入力データの特徴を抽出し学習を進めます。
さらに、ニューラルネットワークは単語の出現確率だけでなく、単語同士の関係性や文脈も考慮しながら学習するため、テキストデータの意味やニュアンスをより深く理解できるのもポイントです。ニューラルネットワークを活用した学習によって、大規模言語モデルは高度な言語処理能力を獲得できます。
4. 文脈の解釈と出力
文脈の解釈は、大規模言語モデルがテキストデータを適切に理解するために欠かせない機能です。ニューラルネットワークを通じて入力されたテキストの背景や文脈を把握し、それにもとづいて意味を推測することで、大規模言語モデルは単なる単語の羅列ではなく、文章全体の意味や文同士のつながりを理解できます。
そして、その後は出力作業(テキスト変換)が実行されます。出力ベクトルを調整し、人間が読みやすい自然なテキストに変換します。モデル内部で処理されたベクトルデータを修正し、最も適切な単語やフレーズを選択することで、自然な文章として出力が可能です。
大規模言語モデルの代表的な種類
大規模言語モデルには、GPT-4oやGeminiなど、IT企業が開発したさまざまな種類があります。大規模言語モデル関連のサービスを導入する際、その基盤となるモデルなので、それぞれの特徴や強みを押さえることが大切です。
GPT-4o
OpenAI社が開発したChatGPTに搭載されているGPTシリーズは、現状最も広く利用されている大規模言語モデルといっても過言ではありません。そのなかでも、最新モデルであるGPT-4oが性能面で最も優れています。
GPT-4oは、テキスト・画像・音声といった多様なメディアを理解し処理できるマルチモーダルモデルです。前モデルのGPT-4と比較して処理速度が数倍に向上し、計算効率も大幅に改善されています。また、テキスト生成能力も格段に向上しており、前モデルでは日本語の生成に若干の不自然さも見られましたが、GPT-4oでは違和感がほとんどありません。
Gemini
Geminiは Googleによって開発された大規模言語モデルであり、マルチモーダルな情報処理に特化している点が大きな特徴です。異なる種類の情報を収集し、それらを統合して処理できるため、テキストだけでなく画像や音声などの多様な情報ソースを統合的に扱えます。そのため、異なる形式のデータを組み合わせて活用したい場合に適した選択肢となります。
JavaやC++、Pythonなど、多様なプログラミング言語を理解しているGeminiは、高品質なコードを生成できるのも特徴です。この能力はコーディングにとどまらず、複雑な数学や理論的なコンピュータサイエンスといったさまざまな場面で活用できます。
LaMDA
LaMDA(ラムダ)は、「Language Model for Dialogue Applications」の略称で、Googleが開発した会話型の大規模言語モデルです。最大の特徴は、特定のトピックや質問に限定されることなく、多様な話題について自由に会話できる点にあります。つまり、ユーザーがどのような質問をしても、LaMDAは適切な回答を生成する能力を備えています。
また、LaMDAにはトランスフォーマーアーキテクチャが採用されており、文脈を深く理解し、次に来る単語を予測することが可能です。ほかの大規模言語モデルと比較した際の大きな違いは、LaMDAが会話型のモデルに特化していることです。そのため、ユーザーとの自然な対話を実現し、新たなカテゴリーの有用なアプリケーションの開発が期待されています。
Claude
Claudeは、Anthropic社が開発した高度な大規模言語モデルです。安全性と倫理性を重視した設計に特徴があります。独自に開発したConstitutional AIを用い、AIシステムに倫理的な原則を組み込むことを目的としています。そのため、Claude は有害なコンテンツの生成を避け、バイアスを最小限に抑えられるのが利点です。
このモデルは幅広いタスクに対応しており、文章生成や質問応答、コード解析などを行えます。長い文脈や複雑な情報を理解し、適切な応答を生成する能力も備えています。このような特徴を活用すれば、カスタマーサポートやコンテンツ制作、研究支援など、多岐にわたる分野での発展が可能です。
大規模言語モデルの活用例5選
大規模言語モデルを用いたAIを活用することで、ビジネスシーンのさまざまな場面でAIによる業務の代行や支援などが可能になります。主な活用例や活用シーンについて紹介します。
文章の作成や要約
大規模言語モデルを活用することで、効率良く文章を作成できます。大規模言語モデルは与えられた文脈にもとづいて自然な文章を生成できるため、Webサイト用の記事やレポート、メールの本文といった文章を自動的に作成可能です。
さらに長文の要約も行えるため、テキストデータから重要な情報を抽出し、簡潔に整理できます。テキストの分類や感情分析など、文章の内容や意図を識別・整理したい場合にも大いに役立つでしょう。
広告のクリエイティブ制作
これまでは広告のコピーや画像の作成はすべて人間が手がけてきました。しかし、今後は大規模言語モデルが文章案を生成することにより、人間のクリエイティブ作業を効率化できます。
例えば、ターゲット層や商品名、キャッチコピーといったキーワードを大規模言語モデルに入力することで、その商品にふさわしい広告文が自動的に生成されます。画像生成系のAIサービスと組み合わせるのも相性が良いでしょう。画像生成AIでは、プロンプトやラフ案の画像などを入力することで、広告向けの商品画像やプロモーション画像を自動的に作成してくれます。
質問に対する回答
大規模言語モデルは、特定の質問に対して関連する情報を抽出し、簡潔で正確な回答を生成できます。まるで人間が書いたかのような自然な文章で回答を行えるのが特徴です。効率良く情報を収集できる利点を活かせば、対話システムやユーザーサポート、カスタマーサービスのチャット対応など、多岐にわたる場面で活用できます。
プログラミング
目的に応じたプログラミングコードの生成は、大規模言語モデルの得意分野の一つです。指定した条件にもとづいてプログラミングコードを生成したり、バグを検出したり、テストの自動化を行ったりと、さまざまな利用方法が考えられます。対話形式でプログラミングコードを生成することもできるため、エンジニアリングの知識が少ない場合でもスムーズにシステムの構築や開発が可能です。
最近では、IT人材の不足を背景にシステム開発の内製化が進んでいます。大規模言語モデルは自社でのシステム開発においても大きな効力を発揮するでしょう。
社員教育
大規模言語モデルは、教育や新たな知識習得をサポートする重要な役割を果たす可能性を秘めています。仮にビジネスシーンで社員教育を行う際は、大規模言語モデルに対して学ぶべきテーマや目的、現在の習熟度、興味の度合いなどを伝えることで、その人に最適な資料や情報を提案してくれます。
これまでの学習履歴をもとに、興味を持ちそうな関連分野や今後学習すべきトピックなどを提示できるのもポイントです。このような利点を活かすことで、従業員は自分のペースで好きなだけ学習を進められます。
大規模言語モデルにおける3つの課題
大規模言語モデルを活用する際は、次のようなポイントに注意が必要です。
- ハルシネーションが発生する可能性がある
- サイバー攻撃や不正利用のリスクがある
- 権利侵害に発展する恐れがある
それぞれの注意点について詳しく解説します。
ハルシネーションが発生する可能性がある
大規模言語モデルが生成する結果の精度は、学習データの量やその質、網羅性に大きく依存しており、データが不足していると出力結果に悪影響を与えることがあります。この現象はハルシネーションとも呼ばれ、AIが事実と異なるもっともらしい嘘を出力する状態や現象を指します。
大規模言語モデルは構文的に正しい単語やフレーズを予測しているに過ぎず、人間の意味を完全に理解しているわけではありません。そのため、誤った情報が出力されたり、ユーザーの意図と異なる結果を生じたりすることもあります。ハルシネーションを抑制するためには、学習データの量と質を向上させることが重要です。
サイバー攻撃や不正利用のリスクがある
サイバー攻撃や不正利用といったセキュリティ上のリスクが生じる点にも注意が必要です。
大規模言語モデルをはじめとするAIの関連サービスを利用する際は、悪意を持ったユーザーがAIモデルから不適切な回答を引き出すという攻撃手法が存在します。この攻撃はプロンプトインジェクションと呼ばれ、本来の意図とは異なる動作をする原因にもなりかねません。これにより機密情報や個人情報が漏洩するリスクが生じます。
プロンプトインジェクションを防ぐためには、プロンプトの入力内容を適切に制御することが大切です。場合によっては、AIへの指示に専門的な知見を持つプロンプトエンジニアを採用したり、意見を聞いたりするのも良いでしょう。ほかにも、出力結果を正しい内容のみにフィルタリングする対策も効果的です。
権利侵害に発展する恐れがある
大規模言語モデルでは膨大なデータを学習に活用しますが、そのなかには著作権で保護されているコンテンツが含まれている場合もあります。そのため、生成されたテキストをそのままコンテンツとして使用すると、著作権侵害のリスクが生じる可能性があります。法的な問題を避けるためには、使用するデータの選別や生成されたコンテンツへの配慮が必要です。
また、現場従業員への教育も重要な役割を果たします。生成AIなどのサービスを利用する際は、その仕組みや法規制、適切な使用方法について理解を深める必要があります。さらに、これを機に全社的なDXリテラシーの教育を行うことで、DXの推進が大きく加速します。
大規模言語モデルの仕組みを理解してAIの活用機会を広げよう
大規模言語モデルは、ビジネスシーンでAIを活用するうえで欠かせない技術の一つです。特に、ChatGPTやGeminiといったテキスト生成AIサービスを利用する際は、その基盤となる大規模言語モデルへの理解が欠かせません。大規模言語モデルの仕組みをしっかりと理解したうえで、自社の課題に応じてAI関連のサービスを活用しましょう。
AI関連のサービスを導入するなら、Google Cloudを活用してみてはいかがでしょうか。Google Cloudには100種類以上のサービスが搭載されており、AI関連サービスはもちろん、クラウドコンピューティングやデータベースシステム、データ分析などの多様なサービスが含まれています。
電算システムでは、Google Cloudのスターターパックサービスや技術コンサルティングサービスなどを提供しています。Google Cloudを活用したデータ分析基盤の構築方法や、データの活用方法などに関して、プロの観点からアドバイスを行っています。「Google Cloudを活用したいが具体的なイメージが湧かない」といったお悩みを抱える方は、ぜひ電算システムへと気軽にお問い合わせください。
監修者

<保有資格>
・Professional Data Engineer

- カテゴリ:
- Google Cloud(GCP)
- キーワード:
- 大規模言語モデル