リモートワークをはじめとした働き方の多様化が進む今、企業はセキュリティと業務効率を考慮しながら、従業員の働きやすい環境づくりに努める姿勢が求められています。情報漏洩のリスクが心配される社外勤務では、いかにセキュリティ上の安全性を確保するかが重要な課題です。
VPN接続は、社内ネットワークへのアクセスの安全性を高める効果的な方法として、多くの企業が注目し、利用しています。社外勤務の多い企業や、セキュリティレベルを高めたい企業は、VPN接続の利用を積極的に検討しましょう。
この記事では、VPN接続をよく知らないという人に向けて、VPN接続の概要や仕組み、利用するメリット・デメリットを解説しています。VPN接続についてわかりやすくまとめた内容になっているので、ぜひご覧ください。
VPN接続とは?拠点間を結ぶ仮想専用線
VPN接続の意味を知る前に、まずはVPNとは何かを理解しましょう。VPNとは「仮想プライベート・ネットワーク」と呼ばれる用語で「Virtual Private Network」の略語です。専用のスイッチやルーターを利用して、仮想的な社内ネットワークで物理的距離のある拠点同士をつなぎ、安全なデータのやり取りを可能にする仕組みを表します。
VPN接続とは、このVPNを利用したインターネットへの接続を意味します。VPN接続によって、企業は社内外にかかわらず、セキュリティ上の安全性を確保しながら、データのやり取りが可能です。VPNの登場以前は、専用線で企業のネットワークを構築する方法が主流でしたが、設置コストが高くなりやすく、利用できるまでに多くの時間がかかりました。
VPN接続は、専用線の課題を克服するために、2000年以降新たに登場したインターネット接続の方法です。専用線よりも少ないコストと時間で安全性の高いデータ通信を可能にする方法として、注目を集めました。
VPNと専用線の違い
VPNと専用線の違いは、設置に必要なコストと時間だけではありません。VPNは優れたインターネット接続の仕組みですが、専用線を利用するメリットもあります。VPNと専用線の違いを確認して、VPNの理解をさらに深めましょう。
VPN
VPNは、本社から拠点(支社)間の通信ができるだけでなく、複数の拠点間でも通信できます。すべての通信で本社を介す必要がなく、専用線よりも利便性の高いデータ通信が可能です。VPN接続を利用すれば、専用線のように物理的な回線を設置する必要がなくなるため、通信の安定性やセキュリティの安全性を確保しつつ、コストと時間を削減できます。
専用線
専用線は、特定の人に限定して利用できる点でVPNと同じですが、拠点間の通信はできません。データ通信は常に本社と拠点間で行う必要があります。専用線の優れた点としては、データ通信を1社で専有できる点です。データ通信の専有により、映像データをはじめとした容量の大きいデータでも安定してやり取りができ、セキュリティ上の安全性も高くなります。
専用線を利用する場合は、物理的に回線を設置しなければならないため、VPN接続と比較してコストが高くなる傾向があります。
VPNの必要性
VPNは、企業が保有する機密情報や保護すべきプライバシーを守るために、必要不可欠な技術です。インターネットは不特定多数の人が利用でき、悪意のある利用者も多く存在しています。セキュリティ対策を何もせずにインターネット上で機密情報のやり取りをすれば、サイバー攻撃の被害にあう可能性が高いでしょう。
VPNによって、インターネットへつながる公衆回線に第三者が閲覧できない仮想的なトンネルを構築できるため、セキュリティ上の安全性が高いデータ通信を常に利用できます。
VPNの仕組み
VPNは、以下4つの仮想化技術とセキュリティ技術で成り立っています。
- トンネリング
- カプセル化
- 認証
- 暗号化
4つそれぞれの概要を確認して、VPN接続の基礎知識を身につけましょう。
トンネリング
トンネリングとは、VPNを仮想的な専用回線として成り立たせている技術です。トンネリングの本来の意味は「トンネルの開通」ですが、VPNにおいては、ネットワーク上の仮想回線を意味しています。トンネリングによって公衆回線に仮想専用線を構築し、機密性の高いデータ通信を実現します。
カプセル化
カプセル化とは、外部からデータの状態や性質がわからないように保護する技術です。カプセル内にデータを入れて情報を隠し、仮想的な専用回線を移動させるような仕組みになっています。カプセル化されているデータは、カプセルから出さない限り利用できません。専用回線は外部から遮断されていますが、カプセル化によってデータを保護すれば、さらにデータ通信における機密性を高められます。
認証
VPNにおける認証とは、仮想的な専用回線の利用を許可された者かどうかを確認して、不正アクセスを防ぐ仕組みです。認証によって専用回線への第三者の侵入を防ぎ、セキュリティリスクを低減できます。認証では、よりセキュリティを強化するために、二段階認証(※1)も利用可能です。
※1. 二段階認証:IDとパスワードによる認証に加えて、他の認証方法も利用するもの
暗号化
VPNにおける暗号化とは、仮想的な専用回線で送受信されるデータを暗号化する技術です。万が一認証を突破されても、データを暗号化して保護していれば、情報漏洩を防げます。暗号化には、以下の2種類があります。
暗号化の種類 | 概要 | 特徴 |
SSL-VPN | SSL(Secure Sockets Layer)という暗号化技術を活用する方法 |
|
IP Sec-VPN | IPsec(Security Architecture for IP) というプロトコルを活用した方法 |
|
VPN接続の主な分類4選
VPN接続には、大きく分けて以下の4つの種類があります。
- インターネットVPN
- エントリーVPN
- IP-VPN
- 広域イーサネット
種類を確認して、VPN接続の理解を深めましょう。
インターネットVPN
インターネットVPNとは、誰でも利用できるインターネット回線上に専用回線を構築する方法です。インターネットVPNのメリットとデメリットは、以下をご覧ください。
- メリット:既にあるインターネット回線を使用できるため、コストを抑えてVPNを構築できる
- デメリット:オープンネットワークを使用するため、セキュリティ面が専用線に比べると劣り、通信速度や通信品質にも課題がある
エントリーVPN
エントリーVPNは、低コストの光ブロードバンド回線を使用して、閉域網を構築する方法です。エントリーVPNのメリットとデメリットは、以下をご覧ください。
- メリット:閉域網であるため、インターネットVPNと比較して高いセキュリティレベルを確保できる
- デメリット:エントリーVPNで使用される光ブロードバンド回線には帯域保証がなく、通信品質が不安定である
IP-VPN
IP-VPNとは、通信事業者が提供する閉域網にVPNを構築する方法です。IP-VPNのメリットとデメリットは、以下をご覧ください。
- メリット:DDoS攻撃(※1)の危険性を持つパブリックゲートウェイを避けて通信できる。アプリケーションの通信速度や応答性を高速にして、ネットワークでの安定した通信品質を確保できる
- デメリット:運用コストが高い
※1. DDoS攻撃:複数のコンピューターからWebサーバーをはじめとした標的に膨大な量のパケットを送り、システムやサービスの提供を妨害すること
広域イーサネット
広域イーサネットとは、IP-VPNと同様に、通信事業者が提供する閉域網にVPNを構築する方法です。IP-VPNはレイヤー3のVPNであるのに対して、広域イーサネットでは、レイヤー2のVPNとなり、レイヤー2を利用した動的ルーティングなど自由度の高いネットワーク構成を実現します。広域イーサネットのメリットとデメリットは、以下をご覧ください。
- メリット:他のVPNと比較してネットワーク構築の自由度が高く、高度な専門技術を持っていれば、利用者のニーズに最適化された品質の高いネットワークを構築できる
- デメリット:高度な専門スキルや高いコストが必要である
VPN接続のメリット3選
VPN接続のメリットは、以下の3つです。
- 安全に通信ができる
- 社外から社内ネットワークへのアクセスが可能
- 低コストで構築できる
メリットを確認して、利用を検討する際の参考にしましょう。
安全に通信ができる
VPN接続を利用すれば、セキュリティが整った環境で安全なデータ通信が可能です。自社のデータを安全に保護しながら、円滑にデータをやり取りできます。仮に公共Wi-Fiを利用した場合、データが暗号化されないため、第三者に情報を盗まれて悪用されるリスクが高くなります。VPN接続では「トンネリング」「カプセル化」「認証」「暗号化」によって強固なセキュリティを構築でき、セキュリティリスクの大幅な軽減が可能です。
社外から社内ネットワークへのアクセスが可能
VPN接続が利用できる企業であれば、社外からでも社内ネットワークへ安全にアクセスできるため、リモートワークを安心して導入できます。出張先や自宅、コワーキングスペースなど、場所にかかわらず安全かつ迅速にデータのやり取りが可能です。
低コストで構築できる
VPN接続は、高いセキュリティレベルを確保しながら、専用線と比較してコストを抑えられるというメリットがあります。VPN接続の中でも、インターネットVPNでは、既にあるインターネット回線を使用できるため、大幅なコスト削減が可能です。ネットワーク機器も特殊なものではなく、比較的安価な汎用品で問題ありません。閉域網にしてより高いセキュリティレベルを確保したい場合でも、エントリーVPNであれば、コストを抑えやすくなります。
VPN接続のデメリット3選
VPN接続のデメリットは、以下の3つです。
- 情報漏洩のリスクがゼロとは言えない
- 通信品質が低くなる場合がある
- コストが膨らむ場合がある
デメリットを確認して、VPN接続で注意すべき点を把握しましょう。
情報漏洩のリスクがゼロとは言えない
VPN接続にはさまざまなセキュリティ対策が施されていますが、情報漏洩のリスクはあります。VPNの種類によってもセキュリティレベルは異なるため、より強固なセキュリティを構築したい場合は、VPNの設定や内容の検討は慎重に行いましょう。
通信品質が低くなる場合がある
VPN接続の利用によって、インターネット通信の品質が低下する場合があります。例えば、インターネットVPNとエントリーVPNは公衆回線を利用するため、利用者の多い時間は回線が混雑して、通信品質や速度が低くなります。
高い業務効率で仕事を進めるには、通信の品質や速度が重要です。業務効率の低下を防ぐためにも、コストと通信品質のバランスを考慮して、VPN接続を利用しましょう。
コストが膨らむ場合がある
コストを抑えたくてVPN接続を利用しても、場合によっては、予定よりもコストが膨らむケースがあります。例えば、通信品質を考慮してIP-VPNや広範囲イーサネットVPNを利用すれば、他のVPN接続と比較してコストが膨らみます。コストを重視する場合は、インターネットVPNとエントリーVPNを選ぶ必要がありますが、セキュリティ面や通信品質も重要です。VPN接続の内容は、自社の目的を中心に全体のバランスも考慮して、慎重に決めましょう。
VPN以外の方法!ゼロトラストとは?
ネットワークのセキュリティ強化を目的にVPNの利用を考えている場合は「ゼロトラスト」の実践を視野に入れるとよいでしょう。ゼロトラストは、保護すべき情報資産へアクセスするものすべてを信用せずに、安全性を検証する考え方です。VPNと同じくネットワークセキュリティの強化に利用されますが、セキュリティの強度やアプローチの方法が異なります。
VPNの場合は、VPN接続後に内部ネットワークへのアクセスに関しては一定の信頼が生まれて、不正アクセスを招くリスクがあります。ゼロトラストは、アクセス制御、認証、暗号化などを組み合わせて、すべてのユーザーやデバイス、アプリケーションを信頼できるかどうか継続的に評価するものです。アクセスするものすべてを継続的に評価するため、より隙のない強固なセキュリティを構築でき、内部ネットワークへの不正アクセスを防止できます。
Google提供のゼロトラストアクセスソリューション Beyond Corp
ゼロトラストは、強固なセキュリティを構築したいと考える企業に役立つ考え方です。情報資産へアクセスするものをより細かく継続的に評価して、セキュリティ上の高い安全性を実現します。Googleは、このゼロトラストを利用したアクセスソリューションである「Beyond Corp」を開発・提供しています。
Beyond Corpでは、ネットワーク自体ではなく、アプリケーション別のアクセス制御が可能です。アクセスするユーザーやデバイス、アプリケーションなどの接続を信頼せずに、アクセス条件や通信を1つずつ確認して、アクセス許可の判断を行います。Beyond Corpの主な機能は以下の通りです。
- シングルサインオン
- プロキシへのアクセス
- アクセス制御ポリシー
- デバイスベースの認証と承認
Beyond Corpの利用方法やプラン料金の詳細を知りたい方は、以下よりお気軽にお問い合わせください。
監修者
- カテゴリ:
- Google Workspace
- キーワード:
- vpn 接続 とは