モバイルバックエンド業務にコンテナ技術を導入している方であれば、「Kubernetes」を用いてアプリケーションの展開やスケーリングを行っているケースが多いのではないでしょうか。しかし、Kubernetesでは独自のハードウェアを構築する必要があるため、保守管理に要するコストや工数が気になるところです。近年は、単一のベンダーが複数のクラウドサービスを取り扱うケースが増え、ワンストップでさまざまな選択肢から目的の製品を選べます。そのため、特定のベンダーのみと契約し、社内のクラウド環境を構築していることも多いのではないでしょうか。
しかし、特定のベンダーに依存した状態では、価格改定や競合他社の新製品リリースの際に適切な対応が取りにくくなります。そこで、複数のベンダーやクラウドサービスを組み合わせて活用する、マルチクラウドの考え方が重要です。
本記事では、マルチクラウドの仕組みやメリット・デメリットを詳しく解説します。導入方法についても具体的に紹介していますので、より柔軟性に優れたクラウド環境を構築したい方は、ぜひ参考にしてください。
マルチクラウドとは異なる複数のクラウドサービスを使い道に合わせて併用すること
クラウドには、複数のユーザーがリソースを共有するパブリッククラウドと、一部のユーザーのみがサービスを占有するプライベートクラウドの2タイプがあります。これらのうち、パブリッククラウドにあたるサービスを複数組み合わせることをマルチクラウドと呼びます。
例えば、データ収集や統合はベンダーA社、データ分析はB社といった形で、複数のクラウドサービスを併用するイメージです。目的や用途に応じて最適なクラウドサービスを選び分けることで、自社にとって最も理想的なクラウド環境を構築できます。
マルチクラウドとよく似た言葉として「ハイブリッドクラウド」があります。ハイブリッドクラウドは、パブリッククラウド・プライベートクラウドの種別にかかわらず、複数のクラウド環境や実装モデル(構築方法)を組み合わせる手法です。
マルチクラウドを導入する4つのメリット
マルチクラウドを導入するメリットは次の通りです。具体的な効果をイメージするためにも、まずは複数のメリットを押さえましょう。- パブリッククラウドの得意分野を組み合わせることができる
- ベンダーロックインを避けられる
- バックアップなどのリスク分散を行いやすい
- 自社に合わせて機能をカスタマイズできる
パブリッククラウドの得意分野を組み合わせることができる
クラウドサービスには膨大な種類があり、それぞれ特徴や得意分野が異なります。マルチクラウドでは、このようなパブリッククラウドごとの強みを組み合わせ、自社のニーズに則ったクラウド環境を構築できるのが利点です。
例えば、国内と海外で別々のクラウドサーバーを構築する際には、マルチクラウドが役立つでしょう。国内拠点には膨大なデータ処理が可能な「Google Cloud」、中国の拠点では、現地のICP(中国国内でのWebサイト登録制度)手続きに強い「Alibaba Cloud」を活用するイメージです。
そのほか、データ収集・分析、帳票作成などの各種機能と自社の要件を照らし合わせ、各領域で必要なクラウドサービスを導入することで、自社に最適なクラウド環境を構築できます。
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ベンダーロックインを避けられる
近年は、ワンストップでさまざまなクラウドサービスを利用できるベンダーが増えています。単一のベンダーと契約を結ぶだけで、社内のあらゆるクラウド環境を構築できるため、特定のベンダーに依存してしまい、他社への乗り換えが困難になっているケースも珍しくありません。このような状態をベンダーロックインと呼びます。
特定のベンダーとだけ契約することは、管理コストや工数の削減といったメリットがある反面、仮に現行ベンダーの利用料金が高騰すると、コスト増のリスクをカバーしにくくなります。
その点、マルチクラウドは一つのベンダーに依拠しないため、ベンダーロックインの難点の解消が可能です。特定のベンダーで価格改定が行われた際や、別のベンダーから最新型のクラウドサービスがリリースされた場合でも、他社へと容易に乗り換えられるというメリットがあります。結果として、クラウド環境を構築する際、常に最適化された状態のコスト構造を保てます。
バックアップなどのリスク分散を行いやすい
外部サーバーを経由して利用するクラウドサービスは、システムに障害が発生すると自社による復旧ができません。そのため、マルチクラウド環境を構築し、データ消失や業務の中断などに対するリスクヘッジを図ることが大切です。
さまざまなクラウドサービスを併用することで、一方のシステムに不具合が起きても、もう一方でカバーできます。万一、システム内のデータが消失した場合でも、別のシステムから移行すれば済むため、より安心してクラウドサービスを利用できるでしょう。
自社に合わせて機能をカスタマイズできる
クラウド環境の機能を自由にカスタマイズできるのも、マルチクラウドのメリットです。一つのクラウドサービスだけでは実現できなかった業務や、自社開発が求められる機能でも、マルチクラウドなら容易に実装・構築できます。
クラウドコンピューティングサービスを例に挙げると、システムの開発環境や実行環境を構築する際には「AWS(Amazon Web Services)」、データ分析には「Google Cloud」といった形で、別々のサービスを併用すると良いでしょう。各サービスの機能性を比較し、活用領域ごとの要件に即した形で導入を検討することが大切です。
マルチクラウドを導入する2つのデメリット
デメリットを参考にすることで、クラウド環境を構築する際の課題や対応策が見えてきます。ここではマルチクラウドの2つのデメリットを具体的に解説します。- 高額なコストが発生しやすい
- 運用が複雑になってしまう
高額なコストが発生しやすい
複数のクラウドサービスを利用するだけあり、単一のサービスを利用する場合に比べ、マルチクラウドのコストは高額になりがちです。そのため、各サービスに搭載されている機能の要否を検証し、自社独自の最適なプランを構築する必要があります。
例えば、Google CloudやAWSをはじめとするクラウドコンピューティングサービスの場合、インスタンス(仮想サーバー)の種類やサイズを最適化することで、運用コストを削減できます。また、ニーズに合わせて自動で容量を調節する、オートスケーリング機能を活用するのも効果的です。
運用が複雑になってしまう
マルチクラウドでは、仕様の異なる複数のクラウドサービスを運用しなければなりません。そのため、運用が煩雑化しやすく、体制の整備に時間がかかったり、学習コストがかさんだりするリスクがあります。できる限りシンプルにマルチクラウドを運用するためには、次のような方法が効果的です。
- APIを活用してクラウド環境のプロセスを自動化するプログラムを構築する
- マルチクラウド管理ツールを導入して複数のクラウドサービスを一元管理する
マルチクラウドはクラウド導入を検討するすべての企業におすすめ
営業やマーケティング、経理、生産管理などの業務ごとにさまざまなクラウドサービスが登場する昨今において、単一のサービスだけで業務効率化や生産性向上を図るのは難しいものです。そのため目的や要件に沿って複数のクラウドサービスを活用するマルチクラウドは、クラウド導入を検討するすべての企業におすすめの手法だといえるでしょう。
マルチクラウドを駆使して適切なクラウド環境を構築することで、各サービスの弱みを補完し、それぞれの強みを最大限に活かせます。
マルチクラウドをどのように利用するのかを明確にする
運用が煩雑化しがちなマルチクラウドだからこそ、導入時の流れを把握し、しっかりと運用時の体制を整えておくことが大切です。次のようなプロセスに沿って準備を進めましょう。
- マルチクラウドをどのように利用するのかを明確にする
- それぞれの目的に最適なクラウドを選定する
- マルチクラウドを運用する体制を整える
無作為に複数のクラウドサービスを導入すると、社内にクラウドサービスが乱立し、管理が行き届かない可能性も考えられます。そのため、最初は試験的な導入も視野に入れておくと良いでしょう。スモールスタートを意識することで、導入後の失敗のリスクを最小限に抑えられます。
それぞれの目的に最適なクラウドを選定する
続いて、マルチクラウドの要件定義を行います。部門・部署ごとにクラウド環境構築のために必要な機能を洗い出しましょう。あわせてネットワークやセキュリティなどの要件も検証します。
自社に合う要件が決まれば、その内容に沿ってさまざまなクラウドサービスを比較します。クラウドサービスを選定する際は、次のようなポイントを押さえることが重要です。
- サービスの料金体系
- UIの使いやすさ
- 機能性
- 拡張性(システム連携によって機能を拡張できる能力)
- 可用性(システムが安定的に稼働できる能力)
- ベンダーのサポート体制
サブスクリプション形態が一般的なクラウドサービスは、契約期間が定められているケースも珍しくありません。一度導入すると、しばらくの間解約できないケースも多いため、導入後に後悔することがないよう、無料トライアルを活用して操作性や機能性をしっかりとチェックしましょう。
マルチクラウドを導入して理想的なクラウド環境を構築しよう
シームレスに組織内の情報を統合できるクラウドサービスは、現代の企業にとって欠かせない存在です。複数のクラウドサービスを適切かつ統合的に運用するためにも、今回紹介した内容を参考に、マルチクラウドの考え方を取り入れてみてはいかがでしょうか。
マルチクラウドの一環としておすすめなのが、「Google Cloud」です。Google Cloudには、データベースやデータ分析、ストレージといった100種類以上のサービスが複合されています。従量課金制で利用できるため、特定の領域で必要なサービスのみ導入できます。
電算システムでは、Google Cloudを検討している方に向けて導入支援サービスを提供しています。こちらの資料でGoogle Cloudと、電算システムのサービス内容を詳しく紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
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- Google Cloud(GCP)
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- マルチ クラウド