近年では、SaaSやPaaSなど、さまざまな「as a Service」関連のサービスが登場し、ビジネスシーンで積極的に活用が進んでいます。今回紹介するCaaSは、SaaSやPaaSと並ぶ「as a Service」関連サービスの一つです。
SaaSには、ソフトウェアをクラウド上で利用できる、PaaSには、開発プラットフォームのクラウド化といった役割がありますが、そのなかでもCaaSはコンテナ運用に特化しています。アプリケーションをコンテナ化した際に発生するデプロイやロールバックなどを、自動的に処理できるのがCaaSの特徴です。そのため、アプリケーション開発やWeb開発の効率性を高めたい方にとって、CaaSは欠かせない仕組みだといえます。
本記事では、CaaSの仕組みや役割、メリット、デメリットなどを詳しく解説します。ビジネスシーンにおける活用例も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
CaaSとはクラウド上でコンテナオーケストレーションを利用できるサービス
CaaS(Containers as a Service)は、直訳すると「サービスとしてのコンテナ」という意味があります。アプリケーション開発に用いられるコンテナを効率良く運用するための、「コンテナオーケストレーション」と呼ばれる仕組みをクラウド上で利用できるのが、CaaSの大きな特徴です。
CaaSを理解するためには、コンテナの役割やコンテナオーケストレーションの特徴などを押さえておく必要があります。そのため、ここではCaaSを理解するための基礎知識を詳しく解説します。
アプリケーション開発におけるコンテナの役割
コンテナとは、アプリケーション開発やWeb開発を効率良く実施するための仮想化技術です。そもそもコンテナには「容器・入れ物」といった意味があり、貨物を入れて輸送するための入れ物として物流業界でよく使用されています。IT業界では、「容器・入れ物」の意味はそのままに、そのなかに含まれる要素が大きく異なります。
IT業界におけるコンテナは、アプリケーションやミドルウェア、OSライブラリなどをまとめて格納することが可能です。これらの要素をパッケージ化することで、アプリケーションやミドルウェアなどを個別に用意せずに済むため、アプリケーション開発やWeb開発のコストや手間を最小限に抑えられます。また、コンテナの中身を変えず、そのまま別の環境へと移行できることから、オンプレミスやクラウドといった環境にかかわらず実行できるのも利点です。
コンテナオーケストレーションの特徴
コンテナには、手軽に開発・実行環境を構築できるメリットがあるものの、その数が増えるほど管理工数がかさんで手間やコストが増大してしまいます。このコンテナの課題を解消するために生まれたのがコンテナオーケストレーションです。
コンテナオーケストレーションを利用すると、コンテナ化されたアプリケーションのデプロイやスケーリングなどの処理が自動的に実行されます。そのほか、クラスタ管理や監視、認証、障害対応など、コンテナの運用管理に必要な手続きも自動化が可能です。ユーザーにとっては、コンテナをデプロイしたり、稼働状況を常時監視したりする必要がなくなるため、アプリケーション開発やWeb開発により注力できる環境が整います。
CaaSの仕組み・特徴
CaaSを導入すると、コンテナオーケストレーションの機能をクラウド上で利用できるようになります。これにより、コンテナオーケストレーションの仕組みをオンプレミス環境で構築せずに済むため、サーバーやネットワークといったITインフラを導入するコストを抑えられたり、インフラ構築に必要な工事を省略できたりと、さまざまなメリットが生まれます。
また、Webブラウザ上でサービスを利用できるため、複数のユーザー・アプリケーション間でリソースを共有できるのもポイントです。情報共有がスムーズになると属人化の抑制につながるほか、効率的なコミュニケーションにより、さらにアプリケーション開発に集中できる環境が整うでしょう。
KubernetesとDockerの違い
CaaSについて情報を探していると、必ず「Kubernetes」と「Docker」という2つの用語を目にするはずです。両者はいずれもコンテナを使ってアプリケーションを実行するための仕組みですが、役割や目的に違いがあります。
Kubernetesは、Googleが開発したコンテナオーケストレーションのプラットフォームです。クラスタ(コンテナの配置・削除などを実施する際に指示を出す、最上位階層に位置する部分)単位でコンテナを実行でき、運用管理を自動化するための機能を備えています。
一方のDockerは主に、各コンテナにアプリケーションを分離するために用いられます。Kubernetesと違い、単一ノード(クラスタを構成している各サーバー)単位でコンテナを実行します。また、Docker Swarmというコンテナオーケストレーションの機能が組み込まれているのも特徴です。
CaaS・IaaS・PaaS・SaaSの違いと比較ポイント
アプリケーション開発やWeb開発の際には、CaaS以外にもIaaSやPaaS、SaaSなどを活用することもあります。それぞれ概念が似ていることから、それぞれの特徴や違いを理解することが大切です。
以下の表の通り、IaaS・CaaS・PaaS・SaaSでは、サービスを利用する際の責任範囲が大きく異なります。
| サービスの責任範囲 | IaaS | CaaS | PaaS | SaaS |
| データ | ユーザー負担 | ユーザー負担 | ユーザー負担 | ユーザー負担 |
| アプリケーション | ユーザー負担 | ユーザー負担 | ユーザー負担 | サービス提供事業者負担 |
| ミドルウェア | ユーザー負担 | ユーザー負担 | サービス提供事業者負担 | サービス提供事業者負担 |
| OS | ユーザー負担 | サービス提供事業者負担 | サービス提供事業者負担 | サービス提供事業者負担 |
| 仮想化ソフトウェア | サービス提供事業者負担 | サービス提供事業者負担 | サービス提供事業者負担 | サービス提供事業者負担 |
| ハードウェア | サービス提供事業者負担 | サービス提供事業者負担 | サービス提供事業者負担 | サービス提供事業者負担 |
ここからは、IaaS・PaaS・SaaSのそれぞれの特徴やCaaSとの違いを解説します。
IaaSの特徴とCaaSとの違い
IaaS(Infrastructure as a Service)とは、仮想的なITインフラをクラウド上で利用できるサービスです。ここでいうITインフラは、サーバーやネットワークをはじめとするハードウェア、仮想化ソフトウェア、データセンターなどを指します。
IaaSを導入することで、開発に必要な環境(スペックやOSなど)を自由に選定したうえで、要件に則ったITインフラを短時間で構築できます。また、スケーリング(システムの処理能力や容量を調整すること)の柔軟性に優れるのもメリットです。
ただし、ミドルウェアやアプリケーションのほか、OSまでユーザー自身で用意しなければならないケースが多く、運用負担が大きくなりやすい点には注意が必要です。その分、開発における自由度が高くなるため、テスト環境を構築したり、アプリケーションをホスティングしたりと、カスタマイズ性が求められる用途に向いています。
PaaSの特徴とCaaSとの違い
PaaS(Platform as a Service)とは、ITインフラにミドルウェアやOSなどを含めた、開発に必要なプラットフォーム一式をクラウド上で利用できるようにしたサービスです。ユーザーにとっては、ITインフラの構築やミドルウェアの実装などに時間をかける必要がなくなるため、アプリケーション開発やWeb開発に集中しやすい環境を整えられます。ただし、IaaSに比べて運用負担を抑えられるものの、カスタマイズ性がやや低下します。
CaaSは、このPaaSとIaaSの中間に位置するサービスです。サービス提供事業者がハードウェアや仮想化ソフトウェア、OS、そしてコンテナの管理機能を提供するのがCaaSの特徴だといえます。
SaaSの特徴とCaaSとの違い
SaaS(Software as a Service)とは、パッケージ製品として提供されていたソフトウェアを、クラウド上で利用できるようにしたサービスです。例えば、従来の会計ソフトは端末側にインストールして利用するのが一般的でしたが、SaaS型の会計ソフトなら、Webブラウザ上でログインするだけで、端末を問わず誰でもサービスを利用できます。
ユーザー側はクラウド上のサービスにアップロードするためのデータを用意するだけで済み、そのほかのITインフラやミドルウェア、OS、さらにはアプリケーションに至るまで、ほとんどをサービス提供事業者側で用意してもらえます。アプリケーションのバージョンアップや定期的な保守管理も、サービス提供事業者の責任範囲に含まれます。
一方で、CaaSでは、あくまでアプリケーションの実行環境が提供されます。そのため、アプリケーションそのものを指すSaaSとは、基本的な仕組みや概念が大きく異なるといえるでしょう。
CaaSを利用する際の3つのメリット
CaaSを利用すると、次のようなメリットが生まれます。
- 柔軟性の高い開発環境を構築できる
- 開発時のコスト削減につながる
- 高いセキュリティを確保しやすい
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
柔軟性の高い開発環境を構築できる
CaaSでは、コンテナ化されたアプリケーションを、環境を維持したまま別の環境へと移行できます。オンプレミス環境はもちろん、ハイブリッドクラウドやマルチクラウドといった高次元の環境への展開も可能です。
システムやソフトウェアを導入する際は、特定の商品やサービスに依存することで、ほかのベンダーに乗り換えるのが難しくなることがあります。これは「ベンダーロックイン」と呼ばれ、技術革新の遅れや柔軟性の低下などにつながる可能性もゼロではありません。その点、環境を問わずに利用できるCaaSであれば、ベンダーロックインに陥るリスクを最小化できます。
また、CaaSには、需要の変動に合わせて開発環境を複製したり、スケールを自由に調整したりできるメリットもあります。高い移行性を備えている点やスケーラビリティに優れる点から見ても、CaaSは柔軟性の高い開発環境を構築しやすいといえるでしょう。
開発時のコスト削減につながる
CaaSのほとんどの製品は、従量課金制を採用しています。つまり、リソースの使用分によって料金が決定する仕組みなので、サービスを利用する機会が少なくなれば、その分コストを抑えられます。
また、CaaSに用いられるコンテナの仕組みも、コストを削減しやすい特徴を備えています。物理基盤や仮想マシン上で開発環境を構築する場合に比べ、コンテナであれば、そのなかにパッケージ化されたアプリケーションやミドルウェアを用意すれば済むため、必要なリソースを少量に抑えられます。そのため、CaaSを利用することで、開発時のコストを大幅に削減できることも珍しくありません。
高いセキュリティを確保しやすい
CaaSに利用されているコンテナは、一つひとつが独立した環境として運用できます。そのため、仮に特定のコンテナで障害が発生したとしても、ほかのコンテナを問題なく稼働させることが可能です。障害発生時の影響を最小限の範囲に抑えられるため、コンテナ運用における可用性を確保できるのが利点です。
また、単一の環境下で複数のアプリケーションが稼働している状態では、あるアプリケーションに変更が加えられた際に、ほかのアプリケーションに影響を与え、予期せぬ不具合が起きることもあります。その点、CaaSではコンテナごとにアプリケーションを区分けできるため、複数のアプリケーション同士の干渉を避けることが可能です。
このような仕組みを備えているCaaSだからこそ、高いセキュリティを確保しつつ、安全な開発環境を整えられます。
CaaSを利用する際の2つのデメリット
CaaSにはさまざまなメリットがある反面、次のようなデメリットも存在します。
- 運用に必要な学習コストがかさみやすい
- サイバー攻撃のリスクが高まる可能性がある
これらはCaaSを利用する際の注意点ともいえるため、あらかじめ課題を解消するための仕組みを整えておくことが大切です。それぞれのポイントと対策方法について解説します。
運用に必要な学習コストがかさみやすい
CaaSはKubernetesやDockerといった仕組みをベースとしたサービスなので、使いこなすにはこれらの技術を習得する必要があります。また、KubernetesやDockerをはじめ、コンテナ関連の技術は頻繁にアップデートされているため、継続的な学習が欠かせません。このような点から、CaaSを運用する際に高額な学習コストがかかることも考えられます。
対策としては、製品選定時にフルマネージド型のCaaSに絞り込むことがあげられます。
フルマネージドとは、パッチの適用やデータのバックアップ、監視など、ITインフラの運用管理をサービス提供事業者側に一任できるサービスです。CaaSにおいては、アプリケーションのデプロイやクラスタ管理、スケーリングなどを自動的に処理してくれるため、高度な技術がなくても扱いやすいうえに、運用管理の手間を抑えられるメリットもあります。
サイバー攻撃のリスクが高まる可能性がある
クラウド上でコンテナオーケストレーションの機能を利用できるのは、CaaSの大きなメリットです。しかし、それと同時に、アップロードしたデータがインターネット上に公開される、データ同士が常に同期されることになるため、インターネットを介したサイバー攻撃の対象になりやすいという危険性も兼ね備えています。万が一、悪意のある第三者から攻撃を受け、社内の機密情報が外部に流出してしまった場合は、信用の失墜や損害賠償といった大きなトラブルにも発展しかねません。
そのため、CaaSを選ぶ際は、実績が豊富で安全性に優れた製品やベンダーを選ぶことが大切です。
例えば、コンテナ間でデータ通信を行う際に暗号化の処理を行ったり、システムを利用するユーザーに柔軟なアクセス制御を設定したりと、セキュリティ機能によって選び分けるのも良いでしょう。また、定期的にセキュリティパッチを適用し、コンテナ化されたアプリケーションを常に最新状態に保つなど、ユーザー側にもセキュリティへの配慮が求められます。
CaaSの活用例3選
CaaSを活用すると、アプリケーション開発やマイクロサービスアーキテクチャの構築など、さまざまな形で発展が可能です。具体的な活用例を紹介します。
アプリケーション開発
CaaSの活用先として最も多いのがアプリケーション開発だといえます。コンテナ化されたアプリケーションのデプロイやスケーリングなどを自動化できるコンテナオーケストレーションの仕組みを利用することで、より効率的にアプリケーション開発を行えるようになります。
実際にCaaSを利用する際は、クラウド上にアプリケーションの開発環境やデプロイ環境を構築します。これにより物理的なITインフラやOSを用意せずに済むため、開発環境を構築する際の手間を削減できます。
また、デプロイやロールバックなど、コンテナ運用に必要なほとんどの処理を自動化できるのもポイントです。単純作業や反復作業を自動的に処理することで、運用者の負担を軽減できるほか、ヒューマンエラーの抑制にもつながります。
マイクロサービスアーキテクチャの構築
マイクロサービスアーキテクチャとは、すでに存在する大規模なアプリケーションを、特定の機能ごとに独立して稼働する小さなサービス(マイクロサービス)に分割するためのアーキテクチャです。
例えば、ECサイトのAmazonは、「商品情報を扱うサービス」や「ショッピングカートを管理するためのサービス」など、複数のサービスが連動し合って一つのシステムが確立されています。このように、個々のサービスが協調し合い、あたかも大規模な一つのシステムの集合体であるかのように見せる仕組みをマイクロサービスアーキテクチャといいます。
CaaSを利用すると、マイクロサービス一つひとつにコンテナを割り当てることが可能です。CaaSに利用されているコンテナは、一つひとつが独立した環境として運用できるため、マイクロサービスの独立性を高められるメリットがあります。また、需要に合わせてマイクロサービスごとの実行環境を柔軟にスケーリングできるのも利点です。
IoTデバイスの管理
CaaSを利用すれば、IoTデバイスに含まれているソフトウェアをコンテナ化することも可能です。具体的には、コンテナ化されたアプリケーションをIoTゲートウェイを経由して稼働させることができます。そのため、IoTデバイスのソフトウェアを更新したり、端末が故障した際に復旧したりする場合でも、スムーズかつ短時間で処理を行えます。
また、柔軟なスケーリングを可能にするCaaSのメリットも存分に活かせます。IoTデバイスの数が増えた場合でも、CaaSなら実行環境を自由にスケールアップできるため、柔軟性の高いIoTデバイスの管理が可能になります。
Google Cloudを使ってCaaSの環境を構築しよう
CaaSにはさまざまな製品が存在しますが、なかでもGoogle Cloudに搭載された「Google Kubernetes Engine(GKE)」を活用するのがおすすめです。GKEは、フルマネージド型のCaaSなので、アプリケーションのデプロイやスケーリングといった処理を自動的に行ってくれます。また、ノードに対する障害を自動で検知・修復できる「Node Auto Repair」や、バックアップデータによる復元が可能な「Backup for GKE」など、さまざまなセキュリティ機能も搭載しています。
Google CloudにはGKEのほかにも、100種類以上のサービスが含まれています。なかにはデータ分析基盤やAIモデル開発、IaaS、PaaSに関連するサービスがあり、それぞれを組み合わせて独自のアプリケーション開発環境を構築できるのが強みです。
GKEの特徴やメリットに関しては、こちらの記事で詳しく解説しています。
CaaSを活用してアプリケーション開発の効率性を高めよう
CaaSは、手軽にアプリケーションの開発・実行環境を構築できる、コンテナオーケストレーションの仕組みを活用したサービスです。コンテナ化されたアプリケーションのデプロイやスケーリングなどの処理が自動的に実行されるメリットを、クラウド上で享受できるのがポイントです。そのため、CaaSを導入することで、柔軟性の高い開発環境を構築できたり、開発時のコスト削減につながったりと、さまざまな恩恵を受けられます。
CaaSの仕組みを活用したい場合は、Google Cloudの導入を検討してみてはいかがでしょうか。Google Cloudには、「Google Kubernetes Engine(GKE)」というCaaSが用意されており、フルマネージドでコンテナオーケストレーションの仕組みを活用できます。
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