従来、アプリケーションやミドルウェアなどを稼働させるには、ホストOS上で個別に仮想マシンを構築する必要がありました。しかし、これではCPUやメモリなどの高性能なリソースが必要で、高額なコストがかかるケースも少なくありません。
このような問題を解消をするために生まれたのがコンテナと呼ばれる技術です。アプリケーションやミドルウェアを一つのコンテナにパッケージングするコンテナ化を進めることで、環境構築や運用のコストを最小限に抑えられます。
本記事では、コンテナ化の仕組みやメリット、注意すべきポイントを詳しく解説します。ビジネスシーンでの活用例も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
コンテナ化とは複数のアプリケーションをパッケージ化する技術
まずはコンテナ化が登場した背景や概要、仕組みについて解説します。
コンテナ化の概念が生まれた背景
そもそもIT分野におけるコンテナとは、アプリケーションやミドルウェア、ライブラリなどの要素を一つの箱(コンテナ)に集約する技術です。
まだクラウド技術が発展する前までは、サーバーをはじめとする物理的なハードウェア内でOSが稼働しており、その基盤のなかでアプリケーションを動かすのが一般的でした。その後、仮想化技術が発展し、物理的なハードウェア内で仮想マシンを構築できるようになりました。その仮想マシンにはゲストOSのほか、アプリケーションやミドルウェアなどの要素が含まれています。
しかし、仮想化技術はリソースの有効活用や省エネといった恩恵をもたらしたものの、さまざまな問題が指摘されていました。例えば、高性能なリソースを必要とする分、コストがかさんだり、仮想化ソフトウェアでトラブルが発生した際の問題特定が困難だったりといった形です。このような仮想化技術の問題点を解消するために生まれたのがコンテナ化の技術です。
従来の仮想化の問題を解消するためにコンテナ化が誕生
コンテナ化とは、一つひとつのコンテナに特定のアプリケーションやミドルウェアなどを集約する技術です。ホストOS上でアプリケーションが稼働する仮想化と異なり、コンテナ化ではコンテナエンジン上でアプリケーションが動作します。
仮想化の場合は各仮想マシンにアプリケーションやミドルウェアなどが含まれていますが、複数のOS(ゲストOS)を使用している以上、別環境への移動やコピーに時間がかかります。一方のコンテナ化では、単体のOSのみでアプリケーションやミドルウェアなどが稼働するため、それぞれの要素が軽量になり、移動やコピーにも時間がほとんどかかりません。
また、ミドルウェアやライブラリを個別に用意する必要がなく、環境にかかわらず即座にアプリケーションを実行できるのも利点です。このような強みを活かすことで開発サイクルをより高速に回転できます。
コンテナ化と仮想化の違い
コンテナ化と仮想化には次のような違いがあります。
コンテナ化 | 仮想化 | |
ゲストOS | 不要 | 必要 |
使用容量 | 少量 | 多量 |
サーバーへの負荷 | 小さい | 大きい |
メンテナンス工数 | 少ない | 多い |
以下でそれぞれの差異について詳しく解説します。
ゲストOS
仮想化の場合、ホストOS上で構成されたゲストOSを起動しないとアプリケーションを実行できません。一方のコンテナ化は、単独のOSとプロセス管理が同期されるため、ゲストOSの起動は不要です。より少ない工数でアプリケーションを実行できるのがコンテナ化のメリットです。
使用容量
仮想化では仮想マシンに、コンテナ化ではコンテナにアプリケーションやミドルウェアを格納します。ただし、仮想化の場合はさらにゲストOSまで格納する必要があるため、コンテナ化に比べて使用容量が増えやすい傾向があります。容量を抑えつつアプリケーションを稼働させるなら、コンテナ化が最適です。
サーバーへの負荷
仮想マシンごとにゲストOSが搭載されている仮想化では、どうしてもメモリの使用量が増えてしまいます。それによりサーバーへの負荷が増え、パフォーマンスの低下やシャットダウンなどのリスクが高まります。その点、コンテナ化では単一OSのなかに各コンテナが存在するため、サーバーへの負荷を最小限に抑えられます。
メンテナンス工数
アプリケーションを稼働させるためのOSは定期的なメンテナンスが欠かせません。仮想化では各仮想マシンに独立したOSが搭載されているため、アップデートなどの整備に手間や時間がかかります。一方のコンテナ化の場合はOSが一つしか存在しません。OSの数が少ない分、メンテナンス工数も少なくて済みます。
コンテナ化を実現するための代表的な技術
コンテナ化を実現するには、「Kubernetes」と「Red Hat OpenShift」という技術がよく使用されます。両者の特徴や機能を押さえておくことで、よりスムーズにコンテナ化を実現できます。
Kubernetes
Kubernetesとは、コンテナ管理を自動化するためのソフトウェアです。Web上にオープンソースが公開されており、コンテナ化を実現する仕組みとして業界標準となっています。
一時停止することなくリリースが可能で、ロールバックも容易に行えるのがKubernetesの強みです。そのため、作業を負荷を軽減しつつ安全にリリースできます。また、コンテナ管理を自動化するには、コンテナ間のネットワーク構築や障害に対する自動修復などの機能を活用します。
Red Hat OpenShift
Red Hat OpenShiftは、IBMの子会社であるRed Hatが提供するコンテナプラットフォームです。Kubernetesをベースに開発されているため、コンテナ管理の自動化や作業負荷の軽減といったメリットがあります。
さらにRed Hat OpenShift独自のメリットとしては、サポート期間が長い点があげられます。Kubernetesのサポート期間が9ヶ月なのに対し、Red Hat OpenShiftの場合は最低でも3年間です。また、脆弱性発見や修正プログラムの提供などの対応が迅速で、Kubernetesよりも高いセキュリティレベルを実現しています。
コンテナ化を実施する3つのメリット
コンテナ化を実施することで次のようなメリットが生まれます。
- 処理速度の向上が期待できる
- 運用時の工数やコストの削減につながる
- 本番実装後のトラブルを回避しやすい
処理速度の向上が期待できる
コンテナは仮想マシンと異なりゲストOSが存在せず、よりシンプルな構造に特徴があります。システムの起動に際して処理が複雑になりにくく、サーバーへの負荷が少ないため、起動時間の高速化や処理速度の向上が期待できます。
企業経営や個別の業務にスピード感が求められる現代において、迅速な処理を行えるのは大きな強みです。コンテナを駆使してさまざまな業務プロセスを効率化すれば、ビジネス環境の変化にも迅速に対応できるでしょう。
運用時の工数やコストの削減につながる
コンテナに含まれるアプリケーションやミドルウェアは一つのOSを共有した状態で稼働します。仮想マシンのようにゲストOSを個別に管理する必要がないため、運用工数の削減につながります。
また、アプリケーションの起動速度が向上し、リソース効率が高まるのも特徴です。その結果、運用コストの最適化が可能です。アプリケーション開発の工数やコストを削減すれば、余った時間をコア業務に割り当てたり、別の事業の予算を増やしたりと、生産性向上にも寄与するでしょう。
本番実装後のトラブルを回避しやすい
テスト環境で検証したものをそのまま本番環境に持ち込めるのがコンテナの特徴です。そのため、テスト環境で十分に検証を行ってから本番へと移行できるため、本番環境で発生するであろうトラブルのリスクを最小限に抑えられます。
特にアプリケーション開発では、スケジュール遵守による品質低下や、ユーザー都合によるプロジェクトの頓挫といった問題が起こりがちです。場合によっては、切り戻し(作業を中断して元に戻す)によって多大なロスが生まれる可能性も考えられます。コンテナ化は本番実装後のトラブルを回避する有効な手段だといえます。
コンテナ化の活用例2選
コンテナは複数のシーンで活用できるため、あらかじめ活用範囲を決めておくことが大切です。以下の2つの活用例を紹介していますので参考にしてください。
継続的なアプリケーションのデプロイ
アプリケーションを特定期間中に継続してデプロイするなら、コンテナ化が効果的です。例えば、同じ期日で複数のアプリケーションをデプロイする場合でも、コンテナ技術であれば対応しやすくなります。コンテナ化は仮想化と異なり、ゲストOSのインストールが不要なので、より効率的なデプロイが可能です。
アプリケーションのリファクタリング
リファクタリングとは、アプリケーションの仕様は変えずにインフラを再構成する作業です。根本的な構成を見直す必要があるため、処理数が増え、本来はハードウェアに大きな負荷がかかります。しかし、コンテナを活用すれば必要な作業を一括で処理できるため、効率良くリファクタリングを進められます。
コンテナ化を実施する際に注意すべき2つのポイント
コンテナ化はメリットだけでなく注意すべきポイントも存在します。
- OSの柔軟性に欠ける
- 仮想化よりもセキュリティリスクが高くなりやすい
このような注意点を押さえると、早いタイミングで適切な対策を立てられるでしょう。以下でそれぞれの注意点や対策方法を解説しています。
OSの柔軟性に欠ける
コンテナ化では、一つのOS基盤上で複数のアプリケーションを稼働させます。そのため、それぞれのコンテナで運用を分けることはできません。
つまりコンテナを活用する際は、メインのOSに仕様が依存しやすい点に注意が必要です。OSの柔軟性に関しては、仮想マシンごとにゲストOSを搭載できる仮想化に軍配があがります。要件次第ではコンテナ化ではなく仮想化で対応すべきケースもあるでしょう。
仮想化よりもセキュリティリスクが高くなりやすい
OSが一つに限定されるということは、セキュリティリスクの増大にもつながってしまいます。仮にメインOSに不具合が生じると、すべてのコンテナにその影響が広がるということです。特にサイバー攻撃を受けた場合は、メインOSを起点に各コンテナへと被害が拡大しやすい点に注意が必要です。
そのため、コンテナを活用する際はセキュリティに優れたサービスを選びましょう。また、ユーザー側で設定できるセキュリティ対策も確実に実行することが大切です。
「Google Cloud」を活用してスムーズなコンテナ化を実現しよう
コンテナ化を進めるのであれば、「Google Cloud」の導入を検討してみてはいかがでしょうか。Google Cloudとは、100種類以上のプロダクトが搭載されたクラウドプラットフォームです。
そのプロダクトのなかには、コンテナ管理に役立つ「Google Kubernetes Engine」や、アプリケーションを稼働するための「Docker」などが含まれています。また、コンピューティングリソースやビッグデータ解析など、複数のプロダクトを組み合わせて活用することも可能です。
Google Cloudはフルマネージドサービスなので、運用負荷を最小限に抑えられます。ワンストップで効率良く開発を進め、さらに運用工数も軽減したい場合は、Google Cloudが大いに役立つでしょう。
コンテナを上手く活用してコスト削減や生産性向上につなげよう
アプリケーション開発をスムーズに進めるのであれば、コンテナ化が有力な選択肢にあがります。ただし、メリットとデメリットの両面を理解することが重要です。処理速度の向上や運用コストの削減につながるコンテナ化ですが、一つのOSに依存しやすく、セキュリティリスク増大のデメリットがあるため、仮想化技術とよく比較して適切な手段を選択しましょう。
コンテナ化を導入するのであれば、「Google Kubernetes Engine」や「Docker」などのプロダクトが搭載されたGoogle Cloudがおすすめです。コンテナ化に役立つ機能に加え、コンピューティングリソースやビッグデータ解析などのプロダクトとも併用できるため、開発環境の業務効率化や生産性向上につながります。
電算システムでは、環境構築やコンサルティングなど、Google Cloudの導入支援サービスを提供しています。専門領域に精通した数多くのエンジニアが在籍しているので、スピーディかつ質の高いサポートを行えるのが強みです。さらに、電算システムのリセールサービスを活用すれば、Google Cloudの利用料に関する請求書発行や割引などを利用できます。Google Cloudと電算システムについては以下の資料で詳細を紹介しているので、参考にしてください。
- カテゴリ:
- Google Cloud(GCP)
- キーワード:
- コンテナ化