企業向けのさまざまなITサービスが登場する昨今では、社内に膨大な量のデータが蓄積されるケースも珍しくありません。このようなデータを効果的に活用するため、ビッグデータ分析に興味を持ち始めた方も多いのではないでしょうか。
今回紹介するNoSQLは、そのビッグデータ分析と非常に相性が良いデータベース形式です。ビッグデータ分析を実施するためには、複雑なデータ形式を高速処理する必要があるため、高速性と柔軟性を兼ね備えたNoSQLのメリットを最大限に活かせます。
本記事では、NoSQLの仕組みや種類、メリット・デメリットを詳しく解説します。NoSQLが実際に活用されている具体的なビジネスシーンも紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
NoSQLとは非リレーショナルなデータベースの総称
NoSQLとは、従来使用されてきたリレーショナルデータベースとは異なるデータベースの総称です。
リレーショナルデータベース(RDB)は、複数の表に含まれているデータ同士を関連付けることで、複雑なデータ管理が可能になる方式を指します。NoSQLは、このリレーショナルデータベースで標準的に用いられる、SQLというデータベース言語を使用しません。その結果、非構造化データへの対応や処理速度の速さなど、従来のデータベース方式にはないメリットが生まれます。
NoSQLが注目されているのは、ビッグデータの活用機会が増えたことが主な要因です。膨大な量のデータを高速処理するには、NoSQLのような速度に強みを持つデータベース方式が向いています。
NoSQLには4種類ある
一概にNoSQLといっても、その種類は次の4通りに分かれます。
- キーバリュー型
- カラム指向型
- ドキュメント型
- グラフ型
それぞれのメリット・デメリットを把握し、適切な種類を取り入れることが大切です。
キーバリュー型
データを識別するための「キー」と、それとセットになった「バリュー」によって構成される、シンプルな形式のデータベースです。キーバリュー型では、次のような形でデータを格納します。
キーの一例 | バリューの一例 |
田中太郎 | 部門:人事部 役職:部長 年齢:40歳 支店:東京 |
このように構造がシンプルだからこそ、高速処理が実現します。格納するデータ容量が少なくて済むのも利点です。ただし、ドキュメント型やグラフ型に比べ、複雑なデータ処理や高度な検索ができない難点があります。
カラム指向型
キーバリュー型の「バリュー」の部分にカラム(列)が追加されたデータベースです。部門や役職といった任意のカラムを追加できますが、各カラムには必ずしもバリューを設定する必要がありません。
列方向へとまとめてデータを処理できるのがカラム指向型のメリットです。特定の列のみを抜き出す集計処理を行う際は、このカラム指向型のNoSQLが向いているでしょう。データの加工が難しく、整合性を担保しにくい点には注意が必要です。
ドキュメント型
データを識別する「キー」の要素はキーバリュー型と同じですが、そのキーとは、「ドキュメント」という要素がセットになります。ドキュメントには、JSONやXMLなどの形式で内容が記述されます。
キーの一例 | ドキュメントの一例 |
田中太郎 | { employee ID:001 age:”40” division:”jinji” branch:”tokyo” } |
ドキュメントを活用することで、複雑なデータ構造を簡易的に表現できるメリットが生まれます。柔軟にスキーマを変更したい場合は、ドキュメント型のNoSQLが適切です。しかし、ドキュメント指向でデータの正規化が必要な際には、データの重複が起きないリレーショナルデータベースが向いています。
グラフ型
キーやバリュー、ドキュメントではなく、グラフ型は次の3つの要素から成り立つ点に特徴があります。
- ノード:ほかのデータベースではキーに該当するデータの実態
- エッジ:複数のノードを関連付けるための要素
- プロパティ:ノードに含まれている属性情報
例えば、「田中太郎」と「山田花子」というそれぞれのノードが、「上司と部下」という関係性でエッジによって結び付けられるイメージです。各ノードには、社員IDや年齢、部門といった形で個別の属性情報(プロパティ)が含められています。
複雑な関連性を持つ複数のデータを扱う場合でも、グラフ型なら素早く必要な情報のみを検索できます。ただし、大量データの書き込みには不向きです。
NoSQLの4つのメリット
リレーショナルデータベースと同様、NoSQLにもメリットとデメリットが存在します。適切な場面に応じて両者を使い分けるためにも、それぞれの長短を理解することが大切です。ここでは、まずNoSQLのメリットを解説します。
- 処理性能が高い
- 拡張しやすい
- 可用性が高い
- さまざまな形式のデータを格納できる
処理性能が高い
NoSQLには、データの一貫性が担保されないという性質があります。
リレーショナルデータベースでは、常に正確かつ最新状態のデータを参照できるよう、データを厳密に整理しなければなりません。しかし、この処理はデータ量が増えるほど膨大な時間が必要となります。
一方のNoSQLは、データの一貫性を担保しない分、大容量データでも迅速な処理が可能です。そのため、ビッグデータのような大量の処理が必要なシステムでも活用しやすいメリットがあります。
拡張しやすい
機器の台数を増やして性能を高めるスケールアウトに対応しやすいのも利点です。メモリ増設によるサーバーダウンや、サーバーリプレースでの一時停止が起きにくく、スムーズにシステムの性能を拡張できます。
将来的にアクセス数が増えたり、高度な処理が求められたりするシステムには、NoSQLが適しています。
可用性が高い
スケールアウトに対応しやすいNoSQLは、拡張性に加え可用性にも優れています。
スケールアウトとは、複数の機器に処理を分散させ、それぞれの負荷を軽減する方法です。それぞれの機器を、同一箇所でなく異なる地域へと設置することで、ネットワーク障害や機器の故障によるダウンタイム(システムを利用できない時間)のリスクを抑えられます。
さまざまな形式のデータを格納できる
画像や音声をはじめとする非構造化データに加え、JSONやXMLなどの半構造化データに対応しているのがNoSQLの特徴です。表形式のように構造が決まっている構造化データしか取り扱えない、リレーショナルデータベースとの大きな違いだといえます。
近年注目を集めているビッグデータには、構造化データのほか、さまざまな非構造化データや半構造化データが含まれています。処理速度が速く、多様な形式に対応できるNoSQLは、まさにビッグデータ分析と相性の良いデータベース形式です。
NoSQLの3つのデメリット
続いて、NoSQLのデメリットを3つのポイントに分けて解説します。
- データの一貫性を確保できない
- 複雑なクエリに対応しにくい
- 学習コストが高い
データの一貫性を確保できない
NoSQLで膨大なデータを処理する際は、性能向上のためにスケールアウトを実施するのが一般的です。スケールアウトによって処理が分散すると、複数のユーザーがデータを参照した際に正しい結果が返ってこない可能性があります。専門的にいえば、データの一貫性を担保できないということです。
高速処理を実現できるNoSQLは、その反面、データ処理の正確性を要求されるシステムには向いていません。
複雑なクエリに対応しにくい
多様な形式のデータに対応しているNoSQLは、効率的なクエリ(データ抽出や検索などの要求)を実行しにくいデメリットがあります。構造化データや非構造化データなど、取り扱うデータ形式が増えるほど処理が複雑になるためです。
処理すべきデータ量が少ない場合は、検索性に優れたグラフ型NoSQLの活用により、この問題を解消できる可能性があります。ただし、複雑なクエリが必要なシステムでは、高度な要求にも対応しやすいリレーショナルデータベースを活用するのがおすすめです。
学習コストが高い
ISO(国際標準化機構)によって規格が統一されているSQLとは異なり、NoSQLには標準言語が存在しません。NoSQLは、データベースの種類によってクエリ実行に使用する構文が異なります。
そのため、ドキュメント型やグラフ型など、複数のデータベースを活用する場合は、クエリ実行に関する新たな言語を習得する必要があります。学習コストが高額になりやすいのは、NoSQL独自のデメリットです。
NoSQLとRDBの違い
NoSQLとリレーショナルデータベースはトレードオフの関係にあり、一方の長所はもう一方の短所となります。
リレーショナルデータベースは、構造化データを表形式で格納できるのが特徴です。複数の表に含まれた要素の関連付けが可能なため、データに一貫性が生まれ、高度な検索が実行できます。
一方、データ容量が大きいほど処理速度が低下するのが難点です。また、原則的に1台のサーバーでしかデータを管理できず、分散性に欠けます。
NoSQLは、これらのメリットとデメリットが完全に逆転します。なぜなら、データの一貫性を確保したまま高速処理を行うといった、両者のメリットを併用することは、現在の技術では実現不可能だからです。
そのため、NoSQLとリレーショナルデータベースの長短を把握し、それぞれを適切な環境で使い分ける必要があります。
NoSQLの活用例5選
NoSQLの具体的な活用シーンをイメージするには、複数の事例を知ることから始めるのがおすすめです。ここでは、NoSQLの活用例を5つのシーンに分けて紹介しています。
IoT
ビジネスシーンでも活用が進むIoT分野では、収集するデータが膨大な量に及びます。さらに、時代の進展とともに取り扱うデータ形式も多様化しています。インターネットを通じて相互的にデータを制御するIoTは、このような大量かつ複雑なデータをリアルタイムで処理しなければなりません。
そのため、データの高速処理ができ、複数のデータ形式に対応するNoSQLは、IoTと好相性だといえます。
Webアプリケーション
低遅延なデータ処理が求められるWebアプリケーションの分野でも、NoSQLの活用が進んでいます。例えば、離れた場所から複数人が同時にプレイするオンラインゲームや、運動データが端末へと即座に記録されるフィットネスアプリなどが代表的です。
また、突発的にトラフィックが急増する、あるいは同時接続数が多いWebアプリケーションにも、高速処理を実現するNoSQLが活用されています。
ECサイトユーザーの行動管理
ECサイトでは、期間限定のセールやキャンペーンなどにより、一時的にアクセス数が急増することも珍しくありません。そのため、ネットワークが混雑した際でも、容易にデータベースを拡張できるNoSQLが活用されることもあります。
特に、ユーザーセッションやカートを管理する際は、リレーショナルデータベースよりもNoSQLのほうが向いています。
SNS
FacebookやInstagramをはじめとするSNSは、アカウントや投稿に加え、それらを関連付ける要素などが組み合わされて、複雑なデータ構造を持ちます。そのため、複数のノードをエッジによって紐付けるグラフ型NoSQLと好相性です。
グラフ型NoSQLを活用することで、経歴や興味などの情報をもとに、関連性の高いユーザー同士をマッチングできます。また、特定の属性を持つ集団へと、関心がありそうな情報を提供できるのも特徴的です。
金融システムの不正検知
NoSQLは、金融システムの不正検知にも活用されています。
例えば、クレジットカードの決済システムでは、利用者がカードを使用するたびに取引の不正を瞬時に判断する必要があります。低遅延でのデータ処理が可能なNoSQLなら、不正検知に時間を要さず、即座に決済が完了します。
NoSQLによるデータ利活用を始めるなら「Google Cloud」がおすすめ
NoSQLを用いてデータを有効活用する際は、さまざまなクラウドサービスが統合された「Google Cloud」がおすすめです。
Google Cloudには、「Datastore」や「Cloud Bigtable」といった複数のNoSQLサービスが含まれています。さらに、ビッグデータ分析に役立つ「BigQuery」や「Looker」などのサービスもあり、相性の良いNoSQLサービスと組み合わせて活用できるのがポイントです。用途に応じた柔軟なデータの利活用を考えている方は、このようなサービスを併用してみてはいかがでしょうか。
もし、Google Cloudの導入に関して悩みや疑問をお持ちなら、電算システムへと気軽にご相談ください。
電算システムには、Google関連サービスのスペシャリストが多数在籍しており、豊富な実績をもとに導入サポートを行っています。また、無償の技術サポートや保険が付帯する、Google Cloudのリセールサービスも用意しています。
データ利活用の基礎について詳しく知りたい方は、こちらの資料をご確認ください。
NoSQLとRDBの違いを理解して自社のデータ活用に役立てよう
リレーショナルデータベースの欠点を補うために開発されたNoSQLは、従来のデータベース方式にはない、高速性と柔軟性を兼ね備えています。ただし、NoSQLとリレーショナルデータベースはトレードオフの関係にあるため、両者のメリット・デメリットを理解したうえで、用途に応じて使い分けることが重要です。
NoSQLの導入を検討している方には、「Google Cloud」がおすすめです。
複数のNoSQLサービスや、ビッグデータ分析サービスが搭載されたGoogle Cloudを導入すると、ニーズに合わせて柔軟にデータを活用できます。電算システムは、充実したGoogle Cloudの導入サポートを提供していますので、気になる方はぜひお問い合わせください。
基本的なデータの活用方法を知りたい方には、こちらの資料が便利です。無料でダウンロードできますので、まずは気軽に取得してみてください。
- カテゴリ:
- Google Cloud(GCP)
- キーワード:
- nosql