アプリケーション開発を行う上で、「エンジニアの数が増えないにもかかわらず、開発や運用が必要なアプリケーション・ソフトウェアの種類ばかり増える」といった悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。このような状態が慢性化すると、煩雑な管理業務によって開発コストや工数が増大してしまいます。
そこで効果を発揮するのが、Anthosです。Anthosは、パブリッククラウドサーバーやプライベートクラウドサーバーなどで稼働する多種多様なアプリケーションを、一元管理するためのプラットフォームです。Google CloudやAWS、Microsoft Azureなどのクラウドプラットフォームのアプリケーションを、1つのダッシュボードに統合できます。そのため、管理業務の効率化や開発コストの削減といった効果が期待できます。
本記事では、Anthosの仕組みや導入するメリットなどを詳しく解説します。
Anthosとはアプリケーションのモダナイゼーションを実現するプラットフォーム
Anthosは、ハイブリッドクラウド・マルチクラウド上で稼働する、多種多様なアプリケーションを統合管理するためのプラットフォームです。アプリケーション環境のモダナイゼーション(老朽システムの刷新)に必要となる、さまざまな機能を搭載しています。
現在、オンプレミス環境やクラウド環境で幅広い種類のアプリケーションを活用できます。このような環境下では、複数のサーバー上で稼働する膨大な量のアプリケーションを管理するために、多くの手間や労力をかける必要があります。
その点、Anthosであれば、サーバーの種別が異なる別々のアプリケーションを一元管理できます。Anthosは「Kubernetes」という仕組みを用いて、同時接続数やノードなどの必要なデータを一元化できるため、開発工数の削減や管理業務の効率化に効果を発揮するのが特徴です。さらに、自社要件に則ったセキュリティポリシーをすべての環境基盤に一括で適用できるので、安全性に優れるメリットも備えています。
Kubernetesの仕組みを知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
Kubernetes(k8s)とは?わかりやすくメリットや特徴を解説
モダナイゼーションとは
Anthosを活用するためには、モダナイゼーションという言葉を理解する必要があります。ここでは、モダナイゼーションの意味や目的について解説します。
モダナイゼーションとは
モダナイゼーションとは、古い業務システムやICTツールなどを最新のものへと置き換えることです。社内のITインフラ全体を見直し、古いシステムを刷新することで、生産性やセキュリティレベルの向上につながります。近年は、国が推進するDXの影響に受けてモダナイゼーションの重要性が高まっています。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?定義や事例をわかりやすく解説
経済産業省は、2018年に公表したDXレポートのなかで、「2025年の崖」という言葉を紹介しました。2025年の崖とは、企業が2025年までにDXを実現できない場合、国内全体で最大12兆円の経済的損失が生じるという、警鐘を示す言葉です。
日本は欧米諸国に比べてDXの進展が遅れ気味だといわれています。その原因の一つが既存のITインフラです。例えば、老朽化した業務システムが組織の生産性を阻害していたり、それぞれの事業部門で取り扱うシステムやデータが分断されていたりと、企業によって実にさまざまな課題が存在します。
このような課題を解消するには、時代的な技術要件に見合わない業務システムを刷新することが、選択肢の一つとして浮かび上がります。つまり、モダナイゼーションはDXの推進剤として機能するため、2025年の崖を回避するのに欠かせない手段だといえるでしょう。
モダナイゼーションの目的
組織の生産性やITインフラのセキュリティレベルを向上させるのが、モダナイゼーションを実施する主な目的です。
社内にある業務システムやICTツールを古い状態のまま使用し続けると、時代の進展とともに向上する技術要件に、データの処理速度や機能が追いつかなくなる可能性があります。また、企業の秘密情報を狙うサイバー攻撃も年とともに多様化・高度化するため、老朽なシステムでは重大なセキュリティトラブルに発展するケースも考えられるでしょう。
モダナイゼーションを実施すると、古いITインフラを、最新の機能やセキュリティ対策を搭載したものへと置き換えられます。結果として、ITツールを活用する幅広い業務の効率化やサイバー攻撃への対策強化へとつながります。
Anthosの主な2つの機能活用
Anthosに搭載されている代表的な機能は次の通りです。
- ハイブリッドクラウド環境の構築
- マルチクラウド環境の構築
ここでは各機能の詳細をご紹介するので、Anthosの具体的な活用方法を活用シーンを想定する際に役立ててください。
ハイブリッドクラウド環境の構築
Anthosには、ハイブリッドクラウドを構築するための機能が搭載されています。
ハイブリッドクラウドとは、複数のサーバー上で稼働するアプリケーションを組み合わせて利用する方法です。ハイブリッドクラウドには次のような種類のサーバーが存在します。
- パブリッククラウドサーバー:複数企業で使用領域を共有するサーバー
- プライベートクラウドサーバー:自社で内製化したクラウドサーバー
- オンプレミスサーバー:自社で内製化した物理的なサーバー
例えば、本社にオンプレミスサーバーを、実店舗にはAWS(Amazon Web Services)を導入し、複数アプリケーションに蓄積されたデータを基幹システムや顧客管理システムに統合できます。1つの社内システムのなかで、それぞれのアプリケーションを相互接続できるのが特徴です。
ハイブリッドクラウドとは?メリット・デメリットやマルチクラウドとの違いも解説
マルチクラウド環境の構築
マルチクラウド環境を構築できるのもAnthosの特徴です。
マルチクラウドとは、パブリッククラウドサーバーとプライベートクラウドサーバーを併用し、それぞれのアプリケーションを別々に利用する方法です。例えば、国内拠点にはGoogle Cloud、中国の拠点にはAlibaba Cloudといった形で、用途に応じて必要なクラウドサーバーを使い分けます。
Google CloudやAWSをはじめとするクラウドプラットフォームには、多種多様な機能が搭載されており、幅広いシーンで活用できます。
しかし、1つのクラウドプラットフォームですべてを賄うのではなく、複数を併用してそれぞれの強みを活かすほうが、業務効率やセキュリティレベルが向上するケースも珍しくありません。それぞれの環境で必要なアプリケーションのみを利用するため、コストを最小限に抑えつつ、機能性やセキュリティレベルを細かく要件に適合できるのが利点です。
複数のアプリケーションを組み合わせて活用できるハイブリッドクラウドに対し、マルチクラウドはそれぞれ単独で利用する特徴があります。
話題のマルチクラウドのメリットとは?ハイブリッドクラウドとの違い
Anthosが解決する2つの課題
Anthosの機能を使うと、どのような課題を解決できるのでしょうか。より具体的な活用例を用いながら、Anthosが解決する2つの課題をご紹介します。
- ハイブリッド・マルチクラウド環境の一元管理が可能
- セキュリティの強化
ハイブリッド・マルチクラウド環境の一元管理が可能
Anthosを導入することで、構築したハイブリッドクラウド環境やマルチクラウド環境を一元管理できます。
Webコンソール(Google Cloudの管理画面)にアクセスすると、Google CloudクラスターやAWSクラスターといったクラスター種別、ノード、同時接続数などの情報が一目でわかります。複数のサーバー上で稼働するアプリケーションを統合的に管理できるため、開発・運用コストや工数の削減につながるのがメリットです。
ハイブリッドクラウド環境やマルチクラウド環境を構築する場合、東京や大阪などの拠点別にクラスターが分散されているケースもあります。Anthosを活用すれば、最寄りのクラスターに通信負荷を分散したり、一方のクラスターが利用できないときに他方に接続したりと、柔軟性に優れているのも特徴です。
セキュリティの強化
Anthosのサービスの一つである「Config Sync」の機能を活用すれば、データの更新履歴などを保管するリポジトリの項目を変更するだけで、任意のクラスターすべてのセキュリティポリシーを一括変換できます。Webコンソール上で各クラスターの稼働状況を把握しつつ、それぞれの要件に添ったセキュリティポリシーを適用できるのが、Anthosの大きな特徴です。
また、アプリケーション開発を進める場合、小規模の独立した機能同士を融合させて大規模なシステムを構築する、マイクロサービスの技法を用いるケースも考えられます。マイクロサービスを採用する場合、各種機能が複数のサーバーに分散されているため、セキュリティの脆弱性を完全に把握するのは困難です。
そこで、Anthosには、サーバー間のセキュリティレベルをグラフ化したり、相互 TLS(mTLS)を用いた認証を行ったりできる「Service Mesh」という機能が搭載されています。マイクロサービスを使ってアプリケーション開発を行う場合でも、セキュリティリスクを最小限に抑えられるでしょう。
Anthosの2つのメリット
Anthosを導入する際は、プラットフォームの活用による効果を十分に理解しておくことが大切です。Anthosには、ロックインのリスク抑制や生産性の向上という2つのメリットがあるため、導入効果を検証する際の参考にしてください。
ロックインのリスク抑制
Anthosを導入することで、パブリッククラウドサーバーやプライベートクラウドサーバー、オンプレミスサーバー上で稼働している、さまざまなアプリケーションを統合的に管理できます。つまり、各アプリケーションの機能を、1つのプラットフォーム上で間断なく活用できるのと同様です。
結果として、単一のアプリケーションのみを利用しているときに起こりやすい、ロックイン(他アプリケーションへの乗り換えが困難な状態)のリスクを抑えられるでしょう。
生産性の向上
組織全体の生産性向上につながるのもAnthosのメリットです。Anthosでは、Webコンソールという統一された管理プラットフォームで、ハイブリッドクラウドやマルチクラウドの複合的なデータを管理できます。また、コンプライアンス要件ごとに定義されたセキュリティポリシーを、すべてのクラスターに適用できるのも特徴的です。
スクラッチ開発で独自のシステムを構築することなく、既存のアプリケーションを幅広い環境に実装できるため、開発コストの最小化や開発工数の最適化につながります。
Anthosを導入する際に活用できるおすすめサービス「Google Cloud」
Anthosを活用する際は、100種類以上のアプリケーションが搭載されている「Google Cloud(グーグルクラウド)」を同時に使用することをおすすめします。Anthosは、AWSやMicrosoft Azureなどのクラウドプラットフォームにも対応していますが、最もスムーズにAPI連携を行えるのはGoogle Cloudです。
Google Cloudを導入すれば、アプリケーション開発プラットフォームの「Google App Engine」や、データウェアハウスの役割を持つ「BigQuery」、リレーショナルデータベースの「Cloud Spanner」といった機能を活用できます。
Google Cloudの仕組みや活用方法については、下記の資料で詳しくご紹介しています。資料内では、アプリケーションごとの仕様を比較しているため、自社にとって適切な機能を選別できるのがメリットです。資料は無料でダウンロードできますので、ハイブリッドクラウドやマルチクラウドに興味のある方は、ぜひ参考にしてください。
まとめ
Anthosはハイブリッドクラウド環境やマルチクラウド環境を構築し、そのなかにある複数のアプリケーションを統合管理できます。DXの推進によって注目度が高まる、モダナイゼーションを実行するためには欠かせないプラットフォームです。
Anthosを導入すれば、複数のサーバー上で稼働するアプリケーションを一元化し、管理業務の効率化や開発コストの削減につなげられます。また、この機会にGoogle Cloudの各種機能を見直し、Anthosとのスムーズな連携をはかるのも方法の一つです。
電算システムは、データサイエンティストやデータエンジニアなどの専門知識を持つ担当者が、よりスムーズなクラウド環境の構築をサポートします。「Anthosの導入方法がわからない」「ハイブリッドクラウドに適用したいが、うまくいかない」といったお悩みを抱えている方は、お問い合わせください。
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