ChatGPTを社内業務に使う中で、社内独自のデータを反映させたいとお考えの方も多いのではないでしょうか。そんなときに有効なのが、RAGです。ChatGPTにRAGを活用すれば、社内独自のデータを反映したアウトプットを容易に得られます。
本記事では、ChatGPTでRAGを活用するメリットや組み込み方法、活用事例まで幅広く解説します。ChatGPTをより効率的に活用したい方は、ぜひ参考にしてください。
RAGとは?基本概念や仕組み、混同する他の言葉との違い
ここでは、RAGの基本概念と仕組みを解説します。あわせて、類似する技術にも触れているため、より深くRAGの特徴を理解できます。
RAGの基本概念
RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、検索(Retrieval)と生成(Generation)を組み合わせたAIの活用の技術です。
RAGでは、質問に対して外部データベースや社内ローカルデータを検索し、その情報をもとに解答を作成できます。過去に学習した情報だけでなく、リアルタイムで取得した最新データも取り込めるため、法改正後のルール変更や市場のトレンドなど、新しい情報にも柔軟に対応可能です。
RAGの仕組み
RAGの仕組みは、次の2ステップに大別されます。
1.情報を検索する
ユーザーの質問に対して、関連情報をデータベースから検索します。この際ベクトルデータベース※を活用することで、言葉の意味や文脈を考慮した効率的な検索が可能です。
※ベクトルデータベース:データを数値ベクトルとして保存し、単なるキーワード検索でなく文脈や質問の意味を考慮して検索できるデータベース
2.回答を作成する
検索して得られた情報をもとに、生成AIが回答を作成します。過去に学習したデータ以外にも最新の外部情報や社内データまで活用できるため、より信頼性が高く、正確な回答が期待できます。
ファインチューニングとの違い
RAGと比較される用語のひとつに、ファインチューニングがあります。これは、事前に学習済みの生成AIサービスに、独自データを学習させ、特定のタスクやケースに合わせてカスタマイズする手法です。
モデル自体を自社専用にアップデートすることで、自社業界や事業領域、特定のタスクに対して精度の高い生成AIを構築できます。
特定の業界やタスクに特化させられる点や、ユーザーが利用しやすい点がファインチューニングのメリットです。
ただし、データの学習やエンジニアリングの知識を持つ人材が必要であり、導入には高いコストやハードルが伴います。また、学習用データセットの収集・整理にも手間がかかります。
プロンプトエンジニアリングとの違い
RAGと比較されるもうひとつの用語に、プロンプトエンジニアリングがあります。これは、生成AIへの質問や指示を工夫し、より適切な回答を引き出すための技術です。
具体的には、生成AIに入力する質問や指示に対し、関連する情報をテキストで追記したり、必要に応じてCSV・PDFファイル・URLなどのデータを添付することで、回答の質を高めます。
エンジニアでなくとも実施できる点や、低コストで始められる点が、プロンプトエンジニアリングのメリットです。
一方で、入力する情報や質問内容の精度が結果に大きく影響するため、プロンプト設計のスキルが求められます。また、あくまで入力データの範囲内で対応するため、大量かつ多様なデータを活用したいケースには不向きです。
ChatGPTでRAGを用いるメリット
RAGはさまざまなAIツールで活用できる技術であり、代表的なAIツールであるChatGPTでも活用可能です。ここでは、ChatGPTにRAGを組み合わせることで得られるメリットを、3つの視点から解説します。
最新で正確な回答を得られる
RAGを活用すれば、一般的な情報だけでなく、企業特有のデータを回答に反映できます。
▼企業特有のデータ例
- 社内FAQ
- 社内ドキュメント
- 製品情報
RAGは登録済みの社内データをリアルタイムで検索し、その結果をもとに生成AIが回答します。そのため、あらゆる業務で必要になる、具体的かつ実用的な回答を得ることが可能です。
また、常に最新の企業データを反映できるため、古い情報や不正確な情報に基づく回答リスクを抑えられる点も大きなメリットです。
データ更新が容易にできる
RAGは、最新情報を外部データベースからリアルタイムで取得し、その内容をもとに回答を生成します。そのため、RAGに読み込ませたいデータを更新するだけで、常に最新情報を反映した応答が可能になります。
情報の差し替えが容易なため、定期的なメンテナンスにも手間がかからない点は、大きなメリットのひとつです。
自然な会話形式で回答を得られる
RAGによる社内データ活用と、ChatGPTの高い自然言語処理能力を組み合わせることで、複雑な問い合わせや細かな質問にも、文脈を踏まえた自然でわかりやすい回答を提供できます。
例えば、マニュアルを開くまでもないようなちょっとした疑問や、誰に聞けばいいか迷う内容を、同僚にチャットで尋ねる感覚で気軽に解消できるのが大きな利点です。
このように、ChatGPTとRAGを組み合わせることは、ナレッジ検索や社内問い合わせ対応の効率化において非常に有効です。
ChatGPTでRAGを組み込む方法
RAGを活用するには、事前にAPIの設定や参照するデータの準備が必要です。ここでは、ChatGPTにRAGを組み込む方法を、5つのステップに分けて解説します。
1.OpenAI APIの取得
まずは、OpenAIのAPIキーを取得します。その際、利用するプランの料金や、APIで使用できるトークン数の上限もあわせて確認しておくことが重要です。
2.データの用意
用意するデータには、最新かつ正確な情報が記載されていることを必ず確認します。その際、Adobe Acrobatといったツールを利用して、PDFからテキスト情報を抽出し、質問と回答に活用しやすい形式に整備することが重要です。
また、データの正確性を維持するためには、統一されたフォーマットでの整理に加え、最新情報への定期的な更新も欠かせません。
さらに、大量のデータを扱う場合は、データの整理(データクレンジング)で質を向上させることも重要です。複数のPDFデータから情報を抽出・統合し、ひとつのデータセットとして構築することも可能です。
3.データベースの用意
整形したテキストデータは、GoogleスプレッドシートやSQLiteなどのデータベースに入力します。用途に応じて適切なデータベースを選択し、データをベクトル化することで、効率的かつ素早い検索が可能になります。
また、インフラの整備を進めれば、より安定した検索環境を構築することも可能です。データを管理しやすくするには、識別用のタグやカテゴリの付与も有効です。
4.ChatGPTと連携
ChatGPTとRAGデータベースを連携させることで、ユーザーの質問に応じて、データベース内の関連情報を検索し、その結果をもとに回答を生成できます。検索で得られた情報はプロンプトに組み込まれ、ChatGPTに渡されることで、より適切な回答が生成されます
この連携には、事前に取得したOpenAI APIキーが必須です。ユーザーからの入力をRAGシステムが受け取り、外部データベースで検索を行い、結果をプロンプトに埋め込んでChatGPTへ渡すという一連の処理にAPIが活用されます。こうした仕組みにより、従来の学習データに加えて、リアルタイム情報まで加味した回答が可能になります。
また、処理速度を向上させるには、キャッシュ機能の導入が有効です。頻繁に利用される検索結果や生成回答を一時的に保存することで、同じ質問に対する回答の生成時間を短縮できます。
5.結果の確認
最後に、システム全体の動作をテストするために、検索結果やプロンプト、データベースの内容を確認します。この工程により、利用者のフィードバックを参考にモデルの最適化を図れます。
テスト時には、実際に使用されるシナリオを想定し、多角的な視点から検証を行うことが重要です。これにより、実用性や運用の安定性を高めることができます。
また、最初は初期コストを抑えたスモールスタートで改善に取り組むことがおすすめです。まずは小規模なプロジェクトにRAGを適用し、徐々に対象範囲を拡大することで、安全かつ効果的に実装・運用のテストができます。
ChatGPTでRAGを用いる際の注意点
ChatGPTにRAGを活用するメリットがある一方で、導入にあたってはいくつか注意点もあります。ここでは、RAGを活用する際に押さえておきたい4つの注意点を解説します。
ハルシネーションのリスクがある
ハルシネーションは、生成AIが実在しない内容や誤った内容に基づく回答を生成する現象です。通常、RAGを利用すれば回答精度が向上しますが、検索で得られた情報が生成プロセスに影響を与えるため、データソースが不正確な場合にはハルシネーションが発生するリスクがあります。また、学習ソースのデータに誤りが含まれていた場合、回答精度が下がる可能性もあります。
これを防ぐには、データソースの質を厳選し、信頼性の高い情報のみを管理・投入することが重要です。特に、社内資料などが更新された際には、最新情報を即座に反映する運用体制を整えることが、ハルシネーションの防止につながります。
回答速度が低下する
一般に、RAGを利用するとChatGPTの回答速度は通常より遅くなる傾向があります。これは、RAGのベクトルデータベース検索というプロセスが追加され、その検索結果をもとに生成AIが回答を作成するためです。
また、検索結果が長いドキュメントの場合には、処理負荷が高まり、応答時間がさらに延びる可能性もあります。
しかし、回答速度が遅いと利用者のストレスになりうるため、可能な限り応答時間を短縮する工夫が求められます。対策としては、検索と生成のプロセスの最適化が求められ、例えば応答をストリーム形式で逐次表示する仕組みを取り入れることが有効です。
セキュリティリスクが発生する
RAGは社内データを扱う特性上、従来の生成AI以上にセキュリティリスクへの配慮が欠かせません。
情報漏洩などのリスクを最小限に抑えるには、以下のような対策が有効です。
- 外部ツールの利用時は、事前にデータの取り扱い放心をヒアリングし、リスクを明確化する
- ファイルをストレージに保管せず、直接ベクトルデータベースに格納する仕組みを構築する
- データの暗号化やアクセス制御、監査ログの管理など、総合的なセキュリティ対策を導入する
- 運用ポリシーとして、個人情報を含むデータは取り扱わない
このように、技術的・運用的な両面から対策を講じることが、RAG導入時のセキュリティ確保には不可欠です。
開発・運用コストが発生する
RAGを実務で活用するには、一定の開発・運用コストが発生します。まず、システム開発には、システム準備やデータ整理、インフラ環境のセットアップなどにコストがかかります。また、クラウドサービスを利用する場合は、サービス利用料やデータ保存・管理コストも必要です。
また、RAGの運用にも継続的なリソース確保が必須です。データの更新・メンテナンスやセキュリティ対策、解答品質のチェック・改善、問題発生時の対応などに一定のコストが発生します。こうした運用業務には、プログラミングやデータベース管理、クラウド設定などの知見を持つ人材が求められます。社内で確保できなければ、アウトソーシングも必要です。
RAGは便利な仕組みですが、運用体制を整えなければ、逆に誤情報によるトラブルや余分なコストを招くリスクがあるため、体制整備と継続的な改善が欠かせません。
ChatGPTでRAGを用いた活用事例
RAGを実務で活用するには、一定の開発・運用コストが発生します。まず、システム開発には、システム準備やデータ整理、インフラ環境のセットアップなどにコストがかかります。また、クラウドサービスを利用する場合は、サービス利用料やデータ保存・管理コストも必要です。
また、RAGの運用にも継続的なリソース確保が必須です。データの更新・メンテナンスやセキュリティ対策、解答品質のチェック・改善、問題発生時の対応などに一定のコストが発生します。こうした運用業務には、プログラミングやデータベース管理、クラウド設定などの知見を持つ人材が求められます。社内で確保できなければ、アウトソーシングも必要です。
RAGは便利な仕組みですが、運用体制を整えなければ、逆に誤情報によるトラブルや余分なコストを招くリスクがあるため、体制整備と継続的な改善が欠かせません。
ChatGPTでRAGを用いた活用事例
ChatGPTでRAGを活用した事例を知ることで、自社での具体的な活用イメージが沸きやすくなります。ここでは、代表的な2つの活用事例を紹介します。
カスタマーサービスのクオリティアップ
RAGが組み込まれたChatGPTは、カスタマーサービスで顧客からの問い合わせに対し、関連情報を即座に検索し、的確な回答を提供できます。これにより、迅速かつ質の高いサポートが実現できるため、顧客満足度の向上と業務効率化の両立が可能です。
また、ChatGPTと社内データベースやマニュアルを連携させることで、より精度の高いチャットボットを構築できます。従来のチャットボットは、一般的な質問への回答はできても、製品やサービスに関する詳細な質問には回答できないケースが多く、これが課題となっていました。
しかし、RAGを活用すれば、ChatGPTが自社のサービス資料や製品情報などの自社データを検索しながら回答できるようになります。そのため、より細かく具体的な質問へも対応可能となり、チャットボットの精度を大幅に向上させることが可能です。
文書管理の最適化
ChatGPTとRAGを組み合わせることで、大量の社内文書から必要な情報を即座に検索できるようになり、従業員が必要な知識へ容易にアクセスできる環境を構築できます。これにより、社内の情報共有が円滑になり、日々の業務フローの効率化が実現します。
例えば、自社のマニュアルや顧客データをChatGPTと連携させて社内検索システムを構築すれば、マニュアル全体をChatGPTに事前学習させる必要はなくなります。質問に応じて、必要な情報のみをリアルタイムで検索・抽出して回答できるため、ナレッジの活用がスムーズになります。
また、ChatGPTに専門的なドキュメントや論文などを連携させることで、その業界特有の専門性を持つコンテンツの作成も可能です。例えば、医療分野であればカルテや診断書、法務分野であれば契約書など、正確さが求められる文書の作成にも対応できます。
ChatGPTの回答精度をRAGでアップさせられる
RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、検索(Retrieval)と生成(Generation)を組み合わせることで、ChatGPTに外部データを参照させながら精度の高い回答を実現する技術です。社内の文書やFAQ、マニュアルなどをもとに応答できるため、カスタマーサポートや社内ナレッジの検索といった業務に活用されています。
RAGを導入するには、APIの取得、データの整備とベクトル化、データベース構築、ChatGPTとの連携など複数のステップを踏む必要があります。加えて、情報の鮮度や正確性を保つために、継続的な運用管理やデータ更新も欠かせません。
一方で、ハルシネーションのリスクや開発・運用コスト、セキュリティ面の配慮など注意点もあります。導入を検討する際は、まずスモールスタートで試験導入し、社内のニーズや体制に合わせて段階的にスケールさせていくのが現実的です。
RAGはGoogle Cloud上でも構築でき、電算システムも導入・運用のサポートが可能です。RAGを活用できるGoogle Cloudと生成AIについて深く知りたい方は、以下のページから資料をダウンロードの上、ぜひご覧ください。
監修者

Google Workspace のエンジニア資格はもちろん、ChromeOS、Google Cloud (旧GCP)の資格も保有。
顧客と伴走し Google サービスを効果的に活用していただく支援をしております。
趣味は落語。
<保有資格>
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・Professional Cloud Architect
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