オンプレミス環境は、従来主流だったシステムの運用形態ですが、インターネットの普及・発展により、クラウド環境に移行する企業が増えました。現在はクラウド環境のサービスも数多くリリースされており、専門性の高いサービスも登場しています。
この記事では、オンプレミス環境のメリット・デメリット、クラウド環境が向いているケースなどについて解説しています。オンプレミス環境からクラウド環境への移行に役立つ情報をまとめているので、ぜひ最後までご覧ください。
オンプレミス環境とは?概要や利用状況を解説
オンプレミス環境とクラウド環境の違いを知る前に、まずは基礎知識として、オンプレミス環境の概要や利用状況を確認しておきましょう。
オンプレミス環境の定義
オンプレミス環境とは、ソフトウェアやサーバーなどの情報システムを使用者自身が管理する設備内に設置して運用することです。自社運用とも呼ばれており、従来は主要なサーバー運用形態でしたが、現在はクラウド環境という運用形態の登場により、オンプレミス環境以外の運用形態を選択する企業も増えました。
クラウド環境とは、外部のサービス事業者が管理するシステムをインターネットを通じて利用する運用形態のことです。オンプレミス環境とは異なり、サーバーやOS、ストレージなどの機器を自社で準備する必要がなく、機器のメンテナンスも自社ではなくサービス事業者が行います。
オンプレミス環境では、インフラやシステムの構築を自社ですべて行う必要がありますが、システムのカスタマイズ性とスペックの自由度が高く、セキュリティレベルも自由に強化できます。
オンプレミス環境の利用状況
企業のクラウド環境の利用状況は年々増加傾向にあり、完全にオンプレミス環境のみで情報システムを運用しているのは少数派です。総務省が公開している令和5年通信利用動向調査によれば、令和元年の段階でクラウドサービスを利用している企業は64.7%になっており、令和2年では68.7%、令和3年では70.4%まで上昇しています。
オンプレミス環境のみの運用と言えるのは、クラウドサービスについて「利用していないが、今後利用する予定がある」「利用していないし、今後利用する予定もない」「クラウドサービスについてよく分からない」と回答した企業で、令和3年の段階では約3割がこれらに該当しています。
また「一部の事業所または部門で利用している」と回答した企業も、オンプレミス環境を利用していると考えられますが、オンプレミス環境のみではありません。
オンプレミス環境とクラウド環境の違い
オンプレミス環境とクラウド環境の違いは、以下の表をご覧ください。
オンプレミス環境 | クラウド環境 | |
初期費用・運用費用 | 高い | 低い |
導入にかかる期間 | 長い | 短い |
カスタマイズ性 | 高い | サービスによって異なる |
セキュリティ性 | 高い | サービスによって異なる |
災害リスク | 高い | 低い(サービスによって異なる) |
オンプレミス環境とクラウド環境の違いについて、詳細を以下で解説します。
初期費用・運用費用
オンプレミス環境では、ソフトウェアやハードウェアの購入・設置、ネットワークインフラの構築などで多額の費用が必要です。また、専門スキルのある人材も必要になるため、多くの場合クラウド環境の方がコストは安くなります。
クラウド環境では、月額利用料金もしくは従量課金制で使用した分の料金だけを払えば、システムを利用可能です。加えて、専門スキルのある人材がいなくてもサービス事業者のサポートサービスを受ければ、問題なくシステムを運用できる場合もあるため、人件費を削減できます。
ただし、クラウド環境の中には、システムを利用する人数分のライセンス購入が必要なサービスもあり、企業の規模によっては、ランニングコストが大きくなってオンプレミス環境の方が安くなるというケースもあります。
導入にかかる期間
オンプレミス環境は、ソフトウェアやハードウェアといった機器の選定や調達、ネットワーク構築などの作業に多くの時間が必要です。具体的には、機器の調達までに1ヶ月から数ヶ月以上の時間がかかる場合が一般的で、複雑なシステム要件であればより多くの時間がかかります。
一方でクラウド環境は、短時間でシステムの導入が可能です。サービスの多くは、インターネット上での簡単な申し込みと決済完了で利用を開始できるため、即日システムの運用を開始できるケースもめずらしくありません。オンプレミス環境に比べてシステムの導入にかかる期間を大幅に短縮でき、迅速に業務で活用できます。
カスタマイズ性
オンプレミス環境では、自社の都合に合わせて、OSやサーバー、ネットワーク機器などを自由にカスタマイズできます。例えば、社外からシステムにアクセスできないようにしてセキュリティを強化したり、処理速度の優れたシステムを構築したりでき、細かいカスタマイズが可能です。
一方でクラウド環境は、サービス事業者があらかじめ用意したカスタマイズ機能から希望のものを選ぶ形になるため、オンプレミス環境ほどカスタマイズ性は高くありません。事業の専門性が高く特殊なスペックやセキュリティ機能が求められる場合は、自社のシステム要件に沿ったカスタマイズができるクラウド環境のサービスを選ぶか、オンプレミス環境を導入する必要があります。
セキュリティ性
オンプレミス環境では、企業のセキュリティポリシーに沿ったセキュリティ対策を利用者自身が選択・準備し、実施できます。対してクラウド環境のセキュリティ性は、サービス事業者に大きく左右されるため、自社のセキュリティポリシーに合うサービスが見つからない場合は、オンプレミス環境の導入が必要です。
セキュリティの安全性の観点で、従来はクラウド環境よりもオンプレミス環境が優れているという考え方が広まっていましたが、現在はセキュリティレベルの高いクラウド環境が増えており、そうとは言いきれません。場合によってはクラウド環境の方がセキュリティレベルが高いケースもあるため、安全性の優劣というよりも、実施できるセキュリティ対策の自由度という点で、オンプレミス環境が優れていると把握しておきましょう。
災害リスク
オンプレミス環境では、オフィスに物理的にサーバーやOS、ネットワークなどの機器が設置されているため、災害が起きた場合にデータ破損や紛失の被害にあう可能性があります。
万が一機器が破損・故障すれば、復旧までに多くの時間がかかり、システムの停止によって大きな損失が発生します。オンプレミス環境を運用する企業は、オフィスとは距離の離れた場所でのデータバックアップやシステムの複製・保管を行い、災害に備えた対策が必要です。
一方でクラウド環境では、複数のデータセンターにサーバーを分散しているサービスも多く、万が一1つのデータセンターが災害の被害にあっても、データやシステムを安全に保護できるようになっています。データが破損・紛失してもバックアップデータから復旧できるため、災害によるシステム停止をはじめとした被害を最小限にできます。
オンプレミス環境における3つのメリット
オンプレミス環境を利用するメリットは、以下の3つです。
- 自社のニーズに合わせてカスタマイズしやすい
- 社内システムとの連携がクラウド環境よりも容易
- 強固なセキュリティ環境を構築できる
メリットを確認して、オンプレミス環境の優れた点を把握しましょう。
自社のニーズに合わせてカスタマイズしやすい
オンプレミス環境は、システム構築の作業をすべて利用者自身が行うため、自社のニーズに合わせたカスタマイズが可能です。ソフトウェアやハードウェア、OSの1つ1つを自社で決定でき、システムのスペックやセキュリティレベルを自由にコントロールできます。
自社独自のシステムを構築でき、運用開始後に不便や不具合が見つかっても、自身のタイミングで修正可能です。クラウド環境の場合は、不便を感じても設定画面で修正できない場合があり、不具合が起きてもサービス事業者に修正を依頼するしかありません。オンプレミス環境では、メンテナンスの頻度やタイミングも含めたシステムの保守作業を自社の都合で自由に実施できます。
社内システムとの連携がクラウド環境よりも容易
オンプレミス環境は、クラウド環境と比較して既存の社内システムとの連携が容易です。例えば、製造業における生産管理システムは、直接販売管理システムや在庫管理システムと連携しなければなりませんが、オンプレミス環境であれば、それらのシステムをすべて同じ設置場所に構築することで、スムーズに連携できます。
専門性の高いシステムや、クラウド環境に対応していないシステムであっても、オンプレミス環境でのカスタマイズによって柔軟に連携が可能です。
強固なセキュリティ環境を構築できる
オンプレミス環境は、システムに施すセキュリティ対策を自社で自由にコントロール可能です。業界や事業内容によっては、外部からの通信を完全に遮断してデータを安全に保護しなければならないケースもあります。
オンプレミス環境では、外部通信を遮断した独自の社内ネットワークを構築できるだけでなく、効果的なセキュリティ対策を自社で選び、セキュリティレベルを強化可能です。自社に合ったシステム構築やセキュリティ対策により、機密情報を安全に保護して情報漏洩のリスクを低減できます。
オンプレミス環境における3つのデメリット
オンプレミス環境を利用するデメリットは、以下の3つです。
- 多額の初期費用・運用費用がかかる
- エンジニアの負担が大きい
- スケールアップ・ダウンが難しい
デメリットを確認して、システム運用の参考にしましょう。
多額の初期費用・運用費用がかかる
オンプレミス環境では、サーバーやOS、ストレージ、ネットワークなどの機器を自社で購入し、設置・構築しなければならないため、多額の初期費用がかかります。システムの規模やスペックによりますが、数千万円から数億円の初期費用がかかるケースもめずらしくありません。
また、システムのアップデート・メンテナンスにかかる人件費や電気代といった運用・保守費用もかかるため、まとまった予算が必要です。
エンジニアの負担が大きい
オンプレミス環境は、要件定義や機器選定、システム構築、テスト運用などのさまざまな工程を経てはじめてシステム運用ができます。運用開始までの労力は大きく、もしテスト運用で不具合が見つかれば、原因を究明して修正が必要になるため、さらにエンジニアの負担は大きくなります。
また、障害対策やトラブル対応も自社で行う必要があり、休日に問題が起きた場合でもエンジニアがかけつけて対応しなければなりません。
スケールアップ・ダウンが難しい
オンプレミス環境では、システムを自由に拡張できますが、スケールアップやスケールダウンをするには、新しい機器の購入やシステムの再構築が必要です。システムに変更を加える度にコストや時間がかかるため、頻繁にスケールアップやスケールダウンをするのは現実的ではありません。オンプレミス環境でシステムを運用する際は、構築段階で将来も見越したデータ処理能力のあるシステムにする必要があります。
オンプレミス環境よりもクラウド環境が向いている5つのケース
近年、オンプレミス環境からクラウド環境に移行する企業が増えています。クラウド環境にはオンプレミス環境にはないさまざまなメリットがありますが、運用形態の変更は労力が大きいため、慎重な検討が必要です。ここでは、オンプレミス環境よりもクラウド環境が向いているケースを以下の5つ解説します。
- 初期費用を安く済ませたい
- 設備の保守管理をできる人材がいない
- 導入期間を短くしたい
- 社外でも利用できるようにしたい
- 災害リスクを最小限に抑えたい
5つのケースを確認して、クラウド環境へ移行すべきかどうか検討しましょう。
初期費用を安く済ませたい
オンプレミス環境は、システム構築までに多額の初期費用が必要ですが、クラウド環境であれば初期費用は基本的にかかりません。デバイスとインターネット環境は必要ですが、もともとあるパソコンやルーターなどを利用すれば、クラウド環境のシステムを初期費用ゼロで利用可能です。
また、クラウド環境は従量課金制のサービスが多くあるため、使った分の利用料金だけがかかり、利用頻度が少ない月は運用費用も安くなります。利用量に応じた課金であれば、無駄なコストを削減できます。
設備の保守管理をできる人材がいない
オンプレミス環境の場合は、システムの保守管理ができる専門スキルを持った人材が必要です。一方でクラウド環境は、システムの保守管理をサービス事業者が担うため、専門スキルを持った人材がいなくても、問題なくシステムを運用できます。人材の確保が難しいときや、人件費を削減したい場合は、クラウド環境への移行がおすすめです。
導入期間を短くしたい
オンプレミス環境は、要件定義や機器選定、システム構築、テスト運用などの工程を経てシステムを導入できますが、クラウド環境ではインターネット上の簡単な申し込みでシステムの導入が完了します。クラウド環境であれば、オンプレミス環境に比べて導入期間を大幅に短縮可能です。
社外でも利用できるようにしたい
オンプレミス環境では、社外からのシステムへのアクセスが難しく、営業先で追加の資料が必要になったり、リモートワークを導入することになったりした際に、対応できません。クラウド環境は、インターネットを通じて利用するため、権限さえあれば社内外問わずシステムにアクセスできます。
外出先やリモートワーク中でも業務効率を落とさずに仕事ができ、取引先とのデータ共有も簡単です。
災害リスクを最小限に抑えたい
クラウド環境は、災害リスクを最小限にしたいという企業に向いている運用形態です。サービスの中には、災害対策として複数のデータセンターでのシステム運用や、データのバックアップをしているものも多く、万が一データが破損・紛失しても被害を最小限にできます。
また、地震や火災対策を施した建物でシステムを管理している場合もあるため、万全な環境でデータやシステムを保護できます。自社で予備システムを管理したり、物理的な災害対策をしたりするリソースの確保が難しい場合は、クラウド環境の導入で災害リスクを低減できます。
クラウド環境への移行を成功させる3つのポイント
クラウド環境への移行を成功させるポイントは、以下の3つです。
- 自社でもセキュリティ対策を行う
- 社内にクラウド移行の必要性を周知する
- 自社に合ったクラウドサービスを選定する
ポイントを把握して、クラウド環境へ移行する際に役立てましょう。
自社でもセキュリティ対策を行う
クラウド環境への移行を成功させるには、複合的なセキュリティ対策が必要不可欠です。サービスで利用できるセキュリティ機能とは別に、追加のセキュリティ対策を自社でも行い、セキュリティ上のあらゆるリスクに備えれば、より安全にシステムを運用できます。セキュリティ対策を検討する際は、社外からのサイバー攻撃だけでなく、社内からの情報漏洩にも備えれば、より強固なセキュリティ環境を構築できます。
社内にクラウド移行の必要性を周知する
クラウド環境への移行は、社内全体での協力が必要です。すべての上層部や部署などの理解がなければ、社内が混乱したり、通常業務が遅延したりして、円滑な移行は実現できません。
移行に向けて行動を起こす前に社内説明会を実施して、上層部や従業員などにクラウド環境へ移行する必要性を伝えましょう。社内説明会では、クラウド環境への移行で上層部や部署、従業員1人1人にどのようなメリットが生まれるのかを相手の目線に立って伝えれば、賛同を得やすくなります。
自社に合ったクラウドサービスを選定する
自社に合ったクラウドサービスの選定は、円滑な移行につながる重要な作業です。クラウドサービスを選定する際は、サービスの特徴や仕様を細かく確認して、既存システムへの連携やスケーリングができるかを把握する必要があります。事前に自社に必要な要件を整理しておけば、サービスの選定がしやすくなります。
自社の状況に応じてオンプレミス環境からクラウド環境に移行しよう
オンプレミス環境とは、サーバーやOS、ソフトウェアといった情報システムを利用者自身が所有する設備に設置し、運用・管理することです。オンプレミス環境には、カスタマイズ性の高さや強固なセキュリティを構築できるメリットがありますが、初期費用や運用費用が高額になりやすいというデメリットがあります。また、システムの導入までに多くの工程があり、時間がかかるだけでなくエンジニアの負担も大きくなります。
クラウド環境であれば、インターネット上の簡単な申し込みでシステムの運用を開始でき、初期費用もオンプレミス環境に比べて大幅に削減可能です。現在オンプレミス環境でのシステム運用をしている方は、クラウド環境への移行を一度検討してみると良いでしょう。
クラウド環境のメリットやオンプレミス環境からの移行方法について詳しく知りたい方は、以下の資料をダウンロードしてみてください。
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