社内に蓄積されたデータを活用するには、ローデータ保管のためのデータレイクや、データ分析用のDWH・BIツールなど、さまざまなツールを駆使して基盤を構築する必要があります。その一連のプロセスで、ローデータから分析用データに加工するという作業が発生します。
この分析用データへの加工やDWHへの格納といった作業に向いているのが、今回紹介するETLツールです。ETLツールを利用すれば、データレイクからDWHへとデータを移行する流れがスムーズになるため、プログラム開発の工数やコストの削減につながります。
本記事では、ETLツールの機能や導入メリット、導入時のポイントを解説します。おすすめのツールも紹介しているので、データ分析基盤を構築したい方は参考にしてください。
ETLとはデータの抽出・変換・格納を一括で処理できる技術やツール
ETLとは、「Extract(抽出)・Transform(変換)・Load(格納)」の頭文字を組み合わせた言葉です。その言葉通り、データの抽出・変換・格納という作業を一括で処理できる点に特徴があります。本来は技術的な位置付けで使用されることが多かったものの、最近では「データの抽出・変換・格納が可能なツール(ETLツール)」として用いられるのが一般的です。
このようなツールが生まれたのは、社内にさまざまな業務システムやクラウドサービスが導入され、ビッグデータと呼ばれる大規模なデータ群を効率良く処理する必要性が生じたためです。従来であれば、処理すべきデータ量が増えるほどデータソースの種別も多様化し、情報を蓄積するための高度で複雑なプログラムを開発しなければなりませんでした。
その点、ETLツールを導入すると、ノーコードかつ簡易的な操作のみで、データの加工やフォーマットの統一化が可能です。結果として開発工数や費用の削減、データ統合時のエラー抑制など、さまざまなメリットが生まれます。
ETLの役割や主な活用シーン
ETLの主な役割は、データレイクに集約されたローデータを、スムーズにDWH(データウェアハウス)へと移行することにあります。データレイクには各種システムに蓄積された生のデータが格納されていますが、それぞれのデータは用途も異なれば、フォーマットにも差があります。そのため、活用方法(データ分析手段)ごとにローデータを整理・分類し、DWHへと必要なデータのみを移行しなければなりません。
この際、データレイクから分析用のデータのみを抽出(Extract)し、分析しやすいようにデータを変換(Transform)してDWHに格納(Load)する、ETLの仕組みが役立ちます。つまり、ETLはデータレイクとDWHの橋渡しのような機能を果たすということです。
最終的に加工されたデータがDWHへと蓄積されることで、データ分析やマイニングといったデータ活用につながります。データ分析基盤を構築するには、データ格納に特化したデータレイクやDWHのみではなく、整形や加工の役割を担うETLが欠かせません。
EAIとの違い
ETLと意味を混同しやすい言葉にEAIがあります。EAI(Enterprise Application Integration)とは、機能や仕様が異なる複数のシステム同士をスムーズに連携させる仕組みやツールです。ただし、ETLとは根本的な役割に違いがあります。
仮にEAIの仕組みがなければ、例えば業務システムAと業務システムBを連携する際に、独自のプログラムやインターフェースを個別に開発しなければなりません。この方法では、各システムのアップデートや改修の度にプログラムを再構築する必要があり、多大なコストや工数が発生します。その点、EAIツールを導入すると、専用のアダプターを実装するだけでシステム同士の連携が可能になるため、コスト的・技術的なハードルが大きく下がります。
このようにEAIは、複数のシステム同士を連携し、それぞれの蓄積データを統合させるのに役立ちます。一方のETLは、蓄積したデータを加工するのが目的なので、EAIとは役割や活用シーンが大きく異なるといえるでしょう。
ETLツールに搭載されている3つの機能
その名の通り、ETLツールには「Extract(抽出)・Transform(変換)・Load(格納)」の3つの機能が搭載されています。それぞれの工程でどのような処理を行うか、以下で詳しく解説します。
Extract(抽出)
Extractは、データレイクから目的のデータを抽出する機能です。具体的には、次のような作業がExtractにあたります。
- 売上分析を行うため、販売した商品の個数・単価をエリアごとに抽出する
- 勤怠分析を行うため、従業員の出勤・退勤・休憩のログを従業員ごとに抽出する
抽出するデータは、分析に必要なもののみに絞り込むことが大切です。
Transform(変換)
Transformは、特定のデータベースへと書き出すために、抽出したデータを一定の規則に則って変換する機能です。具体的には、次のような作業がTransformにあたります。
- 古くなった情報や重複した値などを削除・更新する(データクレンジング)
- 売上記録とマーケティング記録などの異なるソースからのデータを統合する
基本的に抽出したデータは一定の規則に則っていないということが前提となっています。Extractの段階で規則的なデータが抽出できていれば、この変換ステップは不要です。
Load(格納)
Loadは、変換したデータを格納先であるDWHに格納する機能です。規則化されたデータをDWHに保管しておくことで、BIツールといった外部システムを使用する際に、速やかに分析へと取りかかれます。
従来、これら一連のプロセスを実行するにはプログラミング技術が必要で、実装に膨大な工数が必要でした。それが近年は、ETLツールを利用できるようになったことで、より手軽にデータレイクからDWHへとデータを移行できます。
ETLツールを導入する4つのメリット
ETLツールを導入するメリットは次の通りです。
- 専門的な知識や技術がなくても扱いやすい
- 大容量のデータにも対応できる
- データ変換処理の柔軟性が高い
- データ変換時のヒューマンエラーを避けられる
社内に蓄積されたデータをもとに、データドリブンな経営を実施したい企業にとって、ETLツールは不可欠な存在です。それぞれのメリットをもとに、ETLツールがどのような役割を果たすかを見てみましょう。
専門的な知識や技術がなくても扱いやすい
ノーコードで、データ統合に不慣れな人手も扱いやすいのがETLツールのメリットです。本来、データレイクからDWHにデータを移行するためには、スクラッチ開発で専用のシステムを構築する必要がありました。
一方、ETLツールでは、「Extract・Transform・Load」の機能を組み合わせるだけで、DWHへと必要なデータを格納できます。なかには一連の作業フローをドラッグ&ドロップの操作のみで完結できる製品もあります。そのため、ETLツールの導入により開発工数の削減が可能です。
大容量のデータにも対応できる
データ変換の工程に限っては、ETLツールでなくともExcelやBIツールでも実行できます。しかし、ExcelやBIツールでデータを変換すると、長い処理時間がかかってしまい、効率的とはいえません。
一方のETLツールは、大容量のデータを変換する際でも高速処理が可能です。そのため、取り扱うデータ量の多い情報通信業やサービス業などの業種では、ExcelやBIツールよりもETLツールで変換処理を行うのが良いでしょう。
データ変換処理の柔軟性が高い
ETLツールを利用すれば、さまざまな形式へと柔軟にデータを変換できます。変換できる形式は製品ごとに異なりますが、CSVやJSON、ログなどが代表的です。
仮にExcelでデータを変換する場合、形式がExcelファイルに限定されます。また、データ変換処理のために複雑なマクロを設定しなければならないのも難点です。このようにExcelでデータ変換するよりも、ETLツールのほうが柔軟性に優れています。
データ変換時のヒューマンエラーを避けられる
エンジニアがプログラミング開発を行う場合、データを直接加工しなければならないため、データの誤変換・削除などのヒューマンエラーが起こりがちです。データの品質が低下すると、再度同じ品質に戻すことは難しいため、データ変換時のヒューマンエラーは長年の課題でした。
その点、ETLツールでは直感的な作業が可能で、さらに一部の作業を自動化できるため、おのずとヒューマンエラーが起こりにくい環境が生まれます。
ETLツールを導入する際の3つのポイント
さまざまなメリットがあるETLツールですが、導入時に注意すべきポイントがいくつか存在します。それぞれの要点を理解し、あらかじめ必要な対策を講じましょう。
データ変換時の関数が多いツールを選ぶ
分析用のデータへと変換する際は、関数を用いて処理を行います。この関数にはさまざまな種類があり、製品ごとに対応しているものが異なります。仮にデータ変換時に必要な関数がETLツールに内蔵されていなければ、いちからプログラムを構築しなければならないため、業務効率化というせっかくのメリットが薄れてしまうでしょう。
そのため、ETLツールの選定段階で、豊富な関数が用意された製品のみに絞り込むことが大切です。また、「どのようにデータを変換するか」「将来的にどのような変換処理が発生しそうか」といった点を検証し、最適な関数が実装された製品を選ぶと良いでしょう。
連携可能な外部システムの種類を確認する
ETLツールを導入する際は、入口(データソースからのインポート)と出口(DWHへのエクスポート)の両方を踏まえ、連携可能な外部システムを確認することが重要です。仮に、社内で利用しているシステムとの互換性が低ければ、ETLツールの機能が使えない可能性があるためです。
例えば、入口であれば、名刺管理ソフトやアクセス解析ツール、ECサイトなど、幅広い外部システムが対象範囲に含まれます。また、同じ名刺管理ソフトでも、「A製品には対応しているが、B製品には非対応」といったことも考えられるため、具体的な製品名で確認することが大切です。
データ処理量に合わせてスケーラビリティを検討する
ETLツールにおけるスケーラビリティとは、データ処理量の増大に合わせて、どれだけ柔軟に規模を拡大できるかという指標です。スケーラビリティが大きいETLツールは、テラバイト級のデータでも高速処理が可能です。ただし、データ処理量ごとに料金プランが分かれているケースも多いため、大規模なスケーラビリティを求めるほど料金が高額になります。
また、スケーラビリティを検討する際は、オンプレミスとクラウドの導入形態も重要な要素だといえます。オンプレミスの場合、データの処理能力を高めるには、物理的なサーバーのスケールアップやスケールアウトを検討しなければなりません。一方、クラウドタイプであれば、プランを切り替えたり、オプションを購入したりするだけで、柔軟にデータの処理能力を向上できます。
ETLツールのおすすめ5選
ETLツールには次のような製品があります。
- Dataflow
- Cloud Data Fusion
- Reckoner
- ASTERIA Warp Core
- Waha! Transformer
それぞれ特徴や機能性が異なるため、課題をもとに要件定義を行い、自社にとって最適なツールを選び分けましょう。
Dataflow
Dataflowとは、Google Cloudに搭載されているETLツールです。クラウド上で稼働するため、サーバーレスで「Extract・Transform・Load」のフローを構築できます。また、バッチ処理とリアルタイム処理の両方に対応しており、いずれも同一のプログラムで実行可能です。
Google CloudにはDataflowのほかにも、データ分析基盤構築やAI開発などにかかわる、100種類以上のプロダクトが搭載されているため、複数を組み合わせて活用できるのもポイントです。
例えば、ストレージサービスのCloud StorageからDataflowでデータを抽出し、DWHのBigQueryで分析を行うなど、同じプラットフォーム内でデータ統合から分析までの流れが完結します。そのほか、DataflowからAI Platformへとストリーミングイベントを送信すれば、AIによるリアルタイム分析や問題検出が可能です。
料金体系 | データ処理ごとに秒単位で課金 |
主な機能 | ・垂直・水平自動スケーリング ・Right Fitting(ステージ別に最適なリソースプールを作成) ・フロー構築用テンプレート |
公式サイト | https://cloud.google.com/dataflow |
Cloud Data Fusion
Cloud Data FusionもDataflowと同様、Google Cloudに搭載されているETLツールです。Dataflowよりも簡単に「Extract・Transform・Load」のフローを構築できる点に特徴があります。
Dataflowの場合でも、テンプレートを使えばGUI環境を構築できますが、Cloud Data Fusionには標準でGUI環境が用意されているため、ドラッグ&ドロップなどのマウス操作のみでフロー作成が可能です。それぞれのノードは処理方法が事前に定義されているため、プログラミング作業が必要ありません。手軽に試せるのが利点なので、Dataflowの扱いが難しい場合はCloud Data Fusionから始めてみると良いでしょう。
料金体系 | インスタンス作成から削除までの時間(分)単位で課金 |
主な機能 | ・ライブラリ作成 ・ETLフローのテンプレート化 ・統合ツールキット |
公式サイト | https://cloud.google.com/data-fusion |
Reckoner
Reckoner(レコナー)は、100種類以上のデータソースからデータを抽出できるETLツールです。クラウドストレージやビジネスチャットツール、メール配信ソフトなど、幅広い外部システムと連携でき、よりスムーズなデータ統合が可能です。
専門知識やプログラミング作業は不要。ドラッグ&ドロップの直感的な操作でETLフローを構築できます。また、SQLの記述なしでテキストの暗号化やフィールドの除外、表記揺れの解消などの設定を実行できるため、エンジニアの負担軽減につながります。
料金体系 | 月額30,000円~ |
主な機能 | ・データの統合・グループ化 ・集計・四則演算 ・実行結果通知 ・API連携 |
公式サイト | https://reckoner.io/ |
ASTERIA Warp Core
ASTERIA Warp Coreは、ファイル連携やREST連携、データベース連携など、さまざまなデータ連携に対応したETLツールです。連携可能なデータソースも豊富で、グループウェアやSNS、クラウドストレージ、CRM(顧客関係管理)ツールなどの種類が用意されています。
ETLフローの構築に関しては、システム内に用意されたテンプレートから選択可能です。データの処理方法からテンプレートを検索できるため、より簡易的な手順と操作でフローを作成できます。定期実行や休日設定など、カレンダーに合わせて柔軟にスケジュールを調整できるのも利点です。
料金体系 | ・ASTERIA Warp Core:月額30,000円~ ・ASTERIA Warp Core +:月額60,000円~ ・ASTERIA Warp Core ++:月額120,000円~ |
主な機能 | ・ファイル連携・REST連携 ・メール送受信 ・FTP入出力 |
公式サイト | https://www.asteria.com/jp/warp_core/ |
Waha! Transformer
Waha! Transformerは、株式会社ユニリタが提供している純国産のETLツールです。プログラミングやSQLが必要なく、直感的な操作で誰でもETLフローを構築できます。バッチやスクリプトファイルの呼び出しなど、ローコード開発にも対応しており、柔軟性と可用性の高さに特徴があります。
最大1,000億件にものぼるベンチマークテストを実施しているのも特徴です。そのため、4core程度のサーバーでも高速処理性能を発揮できます。また、データマスキングや暗号化、SFTP・FTPSによるファイル転送など、セキュリティ機能が充実しているのもポイントです。
料金体系 | 要問い合わせ |
主な機能 | ・ETLフローのテンプレート化 ・設定情報のHTMLドキュメント化 ・データのマスキング |
公式サイト | https://waha-transformer.com/ |
ETLツールを活用して効率的なデータ分析基盤を構築しよう
データレイクからDWHまで、スムーズな処理でデータの抽出や変換を行えるのがETLツールのメリットです。ノーコードかつ簡易的な操作のみでETLフローを実行できるツールが多いため、エンジニア以外の人でも簡単に扱えます。ETLツールを利用すれば、データ活用のプロセスを簡略化できることから、データ分析基盤を構築するための欠かせないツールだといえるでしょう。
ただし、一概にETLツールといっても、さまざまな製品が存在します。今回紹介した導入時のポイントやおすすめツールを参考に、課題と目的に合わせて最適な製品を選び分けましょう。
データ活用の手段や手順については、こちらの資料で詳しく解説しています。「収集したデータをどのように分析して良いかわからない」「独自の基盤を構築したい」といった課題を抱えている方は、ぜひ参考にしてください。
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