2019年(令和元年)に文部科学省が提唱した教育改革案が「GIGAスクール構想」です。この構想では生徒1人に1台の端末を提供し、国際的に遅れを取っている、地域格差も激しい日本のICT教育の現状を打破することを目指しています。この構想の具体像と課題は、どのようなものでしょうか。
この記事ではGIGAスクール構想について解説します。
「GIGAスクール構想」とは何か?
「GIGAスクール構想」とは2019年に文部科学省が提唱した、学校におけるICT教育の改革案のことです。
GIGAとは「Global and Innovation Gateway for All」の略で、すべての生徒のためにグローバル化とイノベーションのための扉を開くことを目的として掲げています。
2016年に科学技術基本計画で制定された「Society 5.0」時代を生きる子どもたちのために、ICTを基盤とした、個別最適化された教育を全国の学校など教育現場で持続的に実現するための構想です。
生徒1人に対して1台の端末を配備し、それを支える安定した通信ネットワーク環境も構築していくことが施策の中核になっています。
取り組みのスケジュール
GIGAスクール構想は、ハード、ソフト、指導体制の3つを軸とした政策パッケージとして推進されています。
ハードウェア面では、2020年度中には生徒1人1台の端末を配備し、それを活用するための高速で大容量な通信ネットワークの整備を実現するとしています。なお、2020年3月時点の学校への端末の導入は、生徒5.4人に対し1台です。
ソフトウェア面では、デジタル教科書や教材などのデジタルコンテンツの活用を促進し、ICTを活用した学習・教育の例示や実証などを行っていくとしています。
指導体制については、2022年度までに4校に1名程度のICT支援員を配置するほか、ICT活用教育アドバイザーによるワークショップなどを開催していくとしています。
コンピューターとインターネット環境の整備については、当初は2023年までに整備することを目標としていましたが、新型コロナウイルス感染症緊急経済対策によって急遽前倒しで計画が進められ、2020年に実施されることになりました。
そのため、実際にはコンピューターとインターネット環境を先に整備し、それを支えるソフトウェアと教員については後で考える、というのが実情のようです。
文部科学省が掲げる「令和時代のスタンダードな学校」とは
GIGAスクール構想において文部科学省が掲げる「令和時代のスタンダードな学校」とは、実際にはどのようなものなのでしょうか?「ICT環境整備」「クラウド活用」「職員の使用」「未来の学び」の4つの観点から解説します。
よりスムーズなICT環境整備
ICT環境整備を迅速に行うため、学習者用端末や校内LANの標準仕様を例示しています。
実際の「学習者用端末の標準仕様」では、「あくまでモデル」としながらもMicrosoft Windows OS、Google Chrome OS、Apple iPad OSが明示されており、市場でのデファクトスタンダードに沿った画一的な端末の選定と導入を狙ったものになっています。
また、タッチパネルやハードウェアキーボード、カメラなどを標準仕様とすることで、デジタル教材の導入が円滑になるよう考慮されています。
このような前提条件に基づいて、都道府県レベルでの共同調達を推進していくことで導入コストを抑えると同時に、地域格差の解消も狙っています。
使いやすさを促進するクラウド活用
GIGAスクール構想では「クラウド・バイ・デフォルト」の原則により、クラウド活用を推進していくことで、安全・安価で効率的なICT環境整備の実施を可能にしていくとしています。
具体的には、従来の「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」を見直し、クラウドの利用に対応できるセキュリティガイドラインの公表と改訂を行うと同時に、学校側がより柔軟に運用できるようガイドラインの位置付けそのものも見直しが行われました。
セキュリティに関するアップデートと実質的な規制緩和を行うことで、学習・教育と教員の校務の双方で、従来はセキュリティの制限のために利用が難しかったクラウドをより使いやすくすることを目指しています。
職員がすぐに使える
コンピューターや校内LANといったハードウェアだけを整備しても、現場にいる教員がすぐに使えなければ意味がありません。
そのため文部科学省では、小学校・中学校・高等学校それぞれの各教科ならびに特別支援学校での困難種別ごとにICTを活用した学習活動を例示するとともに、教育の情報化に関する手引書も作成して、これらにより「すべての教職員がすぐに使えるように」していくとしています。
実際には、例示と手引書だけでICTに詳しくない教員がすぐにICT教育を実践できるようになるとは考えにくいので、教員の再教育やICT教育のスペシャリストの配置といった支援についても「民間企業などからあらゆる協力を募る」としています。
未来の学びを実現
GIGAスクール構想では、単にICT環境を整備し、その使い方を教えるだけでなく、特に「1人1台端末・高速通信環境」の実現を通じて、学習そのものを「未来の学び」へと変容させていくと謳っています。
具体的には、教室で同じ時間に全員が同じ内容を画一的に学習する授業から、時間や制約を取り払った学習環境への転換が図られます。
グループ学習についても、従来は積極的に参加する子とそうでない子が分かれがちでしたが、ICT環境の整備により一人ひとりが情報を収集し発信するプロジェクト型学習が実現し、創造性の育成が図れるとしています。
さらに、まだ実証実験段階ではありますが、EdTech導入とローカル5Gの活用も構想に盛り込まれています。
現状抱えている課題とこれからの取り組み
経済協力開発機構による2018年の国際的な学習到達度に関する調査「生徒の学習到達度調査(PISA)」では、日本は授業でのICT活用がOECD加盟国で最下位という結果でした。
また地域格差も深刻で、都市部と地方ではICTの環境整備に大きな開きがあり、均等な教育機会を提供できていないという課題があります。ハードウェア面の環境が整備されたとしても、「実際に現場でどのような場面でICTを活用すればいいかわからない」という声が多いのが実情です。
そのため、GIGAスクール構想ではすべての学校でICTの基盤を一気に整備して不平等の解消を進めると同時に、ガイドライン類の改訂・整備も進めることでICT教育の普及に取り組んでいくとしています。
GIGAスクール構想は今後の教育現場の柱となる可能性がある
国際的に大きく後れを取り、地域格差も深刻である日本のICT教育の現状を打破するために文部科学省が打ち出したGIGAスクール構想は、コロナウイルスの影響によって大幅に前倒しされました。
そのため、ハードウェアの整備が先行し教員へのサポートが文書レベルにとどまっているという課題がありますが、今後の進展を見守っていきたいところです。
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