最近では、クラウドストレージやCRM(顧客関係管理)ツール、問い合わせ管理システムなど、ビジネスシーンで活用できる幅広いクラウドツールが登場しています。このようなツールを活用し、オンプレミスからクラウドへと移行することをクラウド化といいます。
クラウド化が実現すると、社内コミュニケーションの円滑化や業務効率化などのメリットが生まれます。とはいえ、クラウド化といっても社内のさまざまな業務システムが対象になるため、どこから手を付けて良いか悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、クラウド化のメリットや活用できるサービスの種類、推進するための手順を解説します。
クラウド化とは既存の情報システムをクラウドサービスに移行すること
そもそもクラウドとは、インターネット経由で利用できるサービス形態を指します。自社で用意したサーバーに専用のソフトウェアを導入するオンプレミスの対義語です。クラウドはオンプレミスとは対照的に、サーバーやソフトウェアを導入・運用する必要がなく、インターネット環境さえあれば、いつでもどこでもサービスを利用できます。
そして、オンプレミスで運用していた既存の情報システムを、クラウドサービスへと移行する方法をクラウド化と呼びます。例えば、基幹システムからCRMツールに顧客情報を移行したり、自社のメールサーバーを廃止してクラウド型のメーラーに乗り換えたりするのが代表的な施策です。
オンプレミスからクラウドに移行したからといって、インフラそのものがなくなるわけではありません。サーバーやネットワーク機器などは、クラウドサービスの提供事業者が独自のデータセンターなどで管理しています。そのため、オンプレミスと比べ、システム要件を自由にカスタマイズしにくい難点があります。このようにクラウド化にはメリットとデメリットの両面があるため、自社の課題や目的に応じて必要性を検討しましょう。
クラウド化に活用できるサービスの種類
クラウド化を進めるには、複数のサービスのなかから自社に合うものを選択する必要があります。そのためにもサービスごとの特徴や長短を理解することが大切です。ここでは、3つのタイプに分けてクラウドサービスの特徴を解説します。
SaaS
SaaS(Software as a Service)とは、従来サーバーにインストールして利用していたソフトウェアを、クラウド上で利用できるようにしたサービス形態です。具体的には次のような種類があります。
種類 | 概要 | 代表的なサービス |
メーラー | クラウド上でメールの一元管理や送受信が可能なツール |
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ビジネスチャット | リアルタイムのメッセージ送受信が可能なツール |
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グループウェア | メールやチャット、スケジュール管理など、社内コミュニケーション機能が豊富に搭載されたツール |
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CRMツール | 顧客の属性や行動履歴など、顧客のあらゆるデータを一元管理できるツール |
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クラウド会計ソフト | 労働時間管理や給与計算など、会計・経理の総合的な機能が備わったツール |
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このようなツールはすべてインストールが不要です。契約するとログイン用のIDとパスワードが発行され、Webブラウザから管理画面にアクセスできます。また、メールアドレスなどで複数のユーザーを招待できるため、組織全体で一つの管理画面を共有できるのも特徴です。
PaaS
PaaS(Platform as a Service)とは、クラウド上のプラットフォームを利用できるサービス形態です。サービス提供事業者が運営する大規模なデータセンター内に、サーバーシステムや仮想ネットワーク、ミドルウェアといったプラットフォームが用意されています。ユーザー側はこのような仕組みを自社で構築する必要がなく、主に従量課金制で必要なプラットフォームのみを利用できるのが特徴です。
一般的にPaaSで利用できるプラットフォームはアプリケーション開発に用いられます。そのため、「オンプレミスのシステムをクラウドへ移行したいが、自社の要件に合うSaaSが存在しない」「要件に合うSaaSはあるが、価格や機能がマッチしない」といった課題があり、いちからアプリケーションを構築する際にPaaSを活用するのが一般的です。
代表的なサービスは、Google CloudやAWS(Amazon Web Services)、Microsoft Azureなど、クラウドプラットフォームと呼ばれるものが主流です。このようなサービスには仮想デスクトップやストレージ共有、データベース構築といったプロダクトが含まれており、ワンストップで幅広い機能を活用できます。
IaaS
IaaS(Infrastructure as a Service)とは、クラウド上にあるITインフラを利用するサービス形態です。具体的には、サーバーのCPUやメモリ、物理ネットワークといったコンピューティングリソースが該当します。従来であれば情報システムのインフラ部門が構築・運用する必要があったITインフラを、必要なときに必要な分だけ利用できるのが特徴です。自社のオンプレミス環境とIaaSを併用し、ハイブリッド環境を構築することも可能です。
代表的なサービスはPaaSと同様、Google CloudやAWS、Microsoft Azureなどがあげられます。このようなサービスにはIaaSとPaaSの両方のプロダクトが搭載されているため、アプリケーション開発に必要なプラットフォームとITインフラを同時に利用できるのが利点です。
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クラウド化によって生まれる4つのメリット
クラウド化を進めると次のようなメリットが生まれます。
- システム導入時のコストや手間を削減できる
- 運用管理の負担を抑えられる
- データの分散やバックアップを実行しやすい
- 働き方改革に対応しやすい
ここでは、それぞれのメリットを詳しく解説します。
システム導入時のコストや手間を削減できる
オンプレミス環境で情報システムを導入するには、サーバーやネットワークを自社で構築しなければなりません。さらに場合によってはソフトウェアのインストールも必要です。クラウド化を実現すれば、このような作業はいっさい必要ありません。
SaaSやPaaSといったサービス形態を問わず、クラウドサービスは登録すれば即座に利用できるものがほとんどです。インターネット環境とログイン情報さえあればシステムにアクセスできます。そのため、導入時のコストや手間を軽減できるほか、導入までの期間短縮につながるのも利点です。
運用管理の負担を抑えられる
導入時だけでなく運用時の負担を抑えられるのもクラウド化のメリットです。クラウドサービスでは、サービス提供事業者がハードウェアや設備を管理しているため、自社で保守や点検をする必要がありません。また、機能追加や不具合解消などのアップデートが即座に実行されるのもポイントです。
オンプレミス環境でも外部の企業に管理業務をアウトソースできますが、ある程度の費用がかかります。それに比べてクラウド環境は、運用時の手間や費用を最小限に抑える最適な選択肢だといえるでしょう。
データの分散やバックアップを実行しやすい
物理的な制約が少ないクラウド環境では、複数の拠点同士でも柔軟にデータを分散できます。例えば、複数拠点でSaaSを利用する際は、離れた場所からでも共通の管理画面にアクセスできるため、場所や時間にかかわらず誰でも必要な情報を参照可能です。複数の拠点にサーバーやネットワークを設置する必要がないため、コスト削減にもつながります。
また、クラウド環境へのデータ移行はバックアップ対策としても効果的です。万一、災害などで物理的なインフラが損傷しても、クラウド上に保管したデータから復元できます。
働き方改革に対応しやすい
インターネット経由で時間や場所を問わずにサービスを利用できるのはクラウドの大きな利点です。このメリットを活かせば、テレワークなどの柔軟な働き方にもスムーズに対応できます。
例えば、クラウド型のメールやチャットがあるだけで、テレワーク中の従業員とリアルタイムのコミュニケーションを行えます。さらにWeb会議システムを導入すると、オンライン上で顔を見合わせて話し合うことも可能です。情報漏洩のリスクが気になる場合は、共有するファイルやデータに閲覧権限や編集権限を付与するのも良いでしょう。
柔軟な働き方が重視される昨今において、時間や場所の制約を排除できる意義は大きいといえます。働き方改革を積極的に推進する企業にとって、クラウド化は欠かせない取り組みです。
クラウド化する際に注意すべき4つのポイント
クラウド化はメリットだけでなく、いくつか注意すべきポイントも存在します。
- 運用コストが増加する可能性がある
- 既存システムとの互換性が損なわれるリスクがある
- 自社でセキュリティリスクをコントロールしにくい
- ベンダーロックインに陥る可能性がある
事前に注意点を押さえておくと適切な対策を立てられます。それぞれの留意点は以下を確認してください。
運用コストが増加する可能性がある
ハードウェアやソフトウェアの導入コストを軽減できるクラウド化ですが、反対に運用コストが増加する可能性があります。例えば、サブスクリプションの料金体系が主流のSaaSの場合、長期間そのサービスを利用するほどトータルコストがかさみます。利用期間によっては、オンプレミス環境でソフトウェアライセンスを購入するよりもコストが高くなるケースも珍しくありません。
そのため、クラウド化を進める際は、中長期的に生じるコストを踏まえて費用対効果を検証することが大切です。必要なものを必要なだけ利用できるクラウドのメリットを活かせるよう、料金プランに無駄がないか見直したり、他社製品の価格と比較したりすることも重要だといえるでしょう。
既存システムとの互換性が損なわれるリスクがある
移行先のシステムによっては、既存システムとの互換性が損なわれる恐れがあります。特にSaaSの場合は、定められた仕様のなかでサービスを利用することになるため、どのような外部システムと連携できるかは製品ごとに異なります。仮に旧システムと新システムとの間に互換性がなければ、プログラムの開発や他社製品への乗り換えで、余計なコストが発生することもあるでしょう。
このような事態を避けるためにも、移行先のシステムを検討するタイミングで旧システムとの互換性を確かめましょう。また、データを移行する際の手順や形式(CSV、Excelなど)、データ連携に便利なWeb APIの有無も確認しておくのがおすすめです。
自社でセキュリティリスクをコントロールしにくい
最近では、高度なセキュリティ体制を備えたクラウドサービスが数多く存在します。例えば、複数のデータセンターにおけるIT資産の分散管理や24時間の監視体制など、利用するサービスによっては、自社でセキュリティ体制を敷くよりも安全性が高まるでしょう。しかし、サーバーやネットワークなどのインフラはサービス提供事業者が管理しているため、自社でセキュリティリスクをコントロールしにくいのが難点です。
ユーザー側で実施できるのは、セキュリティレベルが高く、信頼できるサービス提供事業者を選別することです。PマークやISMSなどの資格を確認するほか、データの保管方法やセキュリティ対策の内容についても、複数社を比較して信頼性を評価しましょう。また、多段階認証や権限設定など、社内で対応できるセキュリティ対策を実施することも重要です。
ベンダーロックインに陥る可能性がある
ベンダーロックインとは、特定のベンダーにのみ依存してしまい、他社への乗り換えが困難になる状態です。特にクラウドサービスは契約期間や保守期間に縛りがあるケースが多く、他社製品に乗り換えたくても、期間的制限によって実現できないことがあります。特定のベンダーに依存すると、大規模なシステム障害などが起きた際に業務が停止してしまう可能性も考えられます。
ベンダーロックインを避けるには、業務にシステムを合わせるのではなく、システムに業務を合わせる視点を持つことが大切です。既存製品の仕様に合わせて業務の進め方を根本的に見直すことで、選択可能なクラウドサービスの幅が広がります。
クラウド化を進めるための3つのステップ
クラウド化を進めるための手順は次の通りです。
- 目的の明確化
- 運用体制の整備
- クラウドサービスの選定
1. 目的の明確化
一概にクラウド化といっても、選択可能なサービスの種類は非常に幅広いものです。自社のビジネスモデルや対象業務によって最適なサービスが異なるため、まずはクラウド化の目的を明確にしましょう。
目的を設定する際は、自社が置かれている現状や課題から導き出します。例えば、社内の情報共有不足が原因で慢性的な属人化に悩まされているなら、円滑なコミュニケーションを実現できるビジネスチャットツールやグループウェアなどが選択肢に入ります。社内に問題が散在している場合もあるため、一通り課題を洗い出した後、それぞれの優先順位を決めると良いでしょう。
2. 運用体制の整備
クラウド化は何らかのサービスを導入して終わりではなく、安定してシステムを稼働させてこそ成果が現れます。そのため、スムーズに運用するための体制を前もって整えておくことが重要です。具体的には次のような取り組みを実施すると良いでしょう。
- プロジェクトの発足や管理者・担当者の選任、責任範囲の明確化
- 運用スケジュールやKGI・KPIの策定
- 情報ガバナンスの策定
- セキュリティポリシーの策定
- 運用マニュアルや研修制度の整備
いままでオンプレミス環境でシステムを動かしてきた企業にとっては、クラウド移行後の姿をイメージするのは難しいものです。運用体制の整備に手間や時間がかかるなら、実績が豊富なベンダーにアドバイスを求めるのも一案です。
3. クラウドサービスの選定
クラウドサービスを選定する際は、まずSaaS・PaaS・IaaSのなかから自社に向くサービス形態を割り出しましょう。そこから具体的な製品の比較・検討に移ります。
クラウドサービスのなかには、導入前のトライアルやデモに対応しているケースも珍しくありません。期間中は無償でサービスの機能を利用できるため、操作性や機能性をじっくりと検討しましょう。ただし、期間が限られている場合が多いので、確認すべき機能や設定方法などのチェックリストを作っておくのがおすすめです。
「Google Cloud」を活用して理想的なクラウド化を実現
クラウド化のなかでもPaaSやIaaSを利用したい方は、「Google Cloud」を活用するのがおすすめです。Google Cloudとは、100種類以上のプロダクトが統合されたクラウドプラットフォームです。コンピューティングリソースやITインフラなどに関するプロダクトが用意されているため、ワンストップでクラウド化を実現できます。
PaaSやIaaSのプロダクトには、Googleのデータセンターで稼働する「Compute Engine」という仮想マシンや、ワークロード実行用のインフラ「Bare Metal Solution」などの種類があります。従量課金制で必要なプロダクトのみを選択できるのが特徴です。
Google Cloudは、クラウド化の要件が特殊または高度で、既存のSaaSを活用するのが難しい場合に向いています。クラウド化に必要なプラットフォームやインフラを活用し、独自のシステムやアプリケーションを構築できるのが魅力です。
目的を明確にしたうえで適切な手順でクラウド化を進めよう
クラウド化を実現すれば、ハードウェアの導入コストや運用工数の削減、業務効率化など、さまざまなメリットが生まれます。ただし、利用可能なクラウドサービスには幅広い種類があるため、目的を明確にしたうえで必要なシステムを選び分けましょう。
SaaSではなくPaaSやIaaSが必要であれば、クラウドプラットフォームの一つであるGoogle Cloudを検討してみてはいかがでしょうか。Google Cloudでは、従量課金制でGoogleが提供するプラットフォームやインフラを利用できます。100種類以上のプロダクトを柔軟に組み合わせて、スムーズにクラウド化を進められるのがメリットです。
電算システムでは、環境構築やコンサルティングなど、Google Cloudの導入支援サービスを提供しています。専門領域に精通した数多くのエンジニアが在籍しているので、スピーディかつ質の高いサポートを行えるのが強みです。さらに、電算システムのリセールサービスを活用すれば、Google Cloudの利用料に関する請求書発行や割引などを利用できます。Google Cloudと電算システムについては以下の資料で詳細を紹介しているので、参考にしてください。
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